東京都の「新」都立大学設置にかんする要望書

「中央大学仏語仏文学研究会」

2004年5月13日

東京都知事　石原慎太郎殿
東京都大学管理本部長　山口一久　殿

中央大学の「仏語仏文学研究会」は、本学の各学部に所属してフランス語とフランス文学の研究・教育に携わる全専任教員の研究組織であります。この会のメンバー全員は、以下に示す理由から、現在、東京都が進めている都立四大学の統合・改編計画の内容とその立案過程について深い憂慮を表明し、知事と管理本部がこれまで行ってきた一方的推進方式を即刻あらためて、「新」大学案をまず白紙撤回し、四大学のすべての構成員をまじえた民主的手続にもとづき、案そのものを最初から検討し直されることを、強く要望いたします。

１）東京都が２００３年８月１日に発表した「新」大学案は、それまで積み重ねられてきた都と都立四大学との話し合いの成果を完全に無視し、教授会の権限と責務を踏みにじる上意下達的決定であり、学校教育法、東京都立大学条例に照らしても到底適当と認められるものではありません。私たちは知事と管理本部が、民主主義と大学の理念に立ち返り、このような強権的な措置を取られることのないように強く要望いたします。

２）「新」大学案には、「都市教養学部」のカリキュラムを外部受験産業に発注する方式や、教育責任を曖昧にする「単位バンク制」などが含まれています。これらの内容は、高等教育の場たる大学の理念に反し、現行の大学設置基準を満たすものとは考えられません。

３）「新」大学案においては、大学院体制にかんする構想が完全に欠落しており、近い将来どのような大学院を準備するのかという構想のかけらも示していないばかりか、現在大学院に在籍する院生たちに対して「新」大学体制への明確な移行条件すら提示していません。このような状況は、学問への意欲に燃え、信頼に値する大学院として都立大学大学院に自己の将来を委ねた大学院在学生に対し大きな不安感を与えるものであり、示された「改革案」を、私たちは大学の社会的責任によく応えうるものと見なすわけにはいきません。

４）私たちがとりわけ憂慮しているのは、この「新」大学案に、現在の東京都立大学人文学部に設置されている語学・文学系の学科・専攻が含まれていないことです。しかも、哲学・史学・教育学についても大幅な縮小提案を含んでいます。わが中央大学は、同じ地域の教育・研究の充実を図る目的で、東京都立大学とのあいだに特別な協力協定を結び、学生による両大学図書館の相互利用を実現したばかりでなく、いくつかの学部間では一定の授業において相互の単位互換制を導入して、交流の成果を上げつつあります。その成果がもっとも期待されている学部が、中央大学側では文学部、東京都立大学側では人文学部であるだけに、私たちは特に人文学部の改組についての再検討を強く希望いたします。内外から高い評価を受け、日本における人文学研究者養成において高い実績を上げてきた都立大学のこれまでの蓄積を未来に向けて生かせる形での構想の練り直しを強く要望いたします。

５）東京都の「新」大学案は、これまでの教育・研究の質を保証してきた現行制度を否定し、在任中の全教員に対し、任期制・年俸制を受け入れるか、今後の昇進・昇給を断念するかの二者択一を迫っています。私たちは教員から安定した労働・研究環境を奪う雇用労働条件のこのような劣悪化には深い憂慮の念を持たざるを得ません。

６）東京都大学管理本部が都立四大学の教員に対して要求した「意志確認書」は、よりよい大学づくりの努力に資するものとはとうてい言い難いものであり、管理本部の方針に従わない教員への恫喝とすら見なされかねないものです。去る３月９日付で、学長予定者、西澤潤一氏と、大学管理本部長、山口一久氏との連名で出された見解も、一方的に「新」大学案への全面的服従を強要するものであり、民主主義のルールに則ったものとは見なせないと私たちは考えています。

　以上の理由から、「中央大学仏語仏文学研究会」は、東京都が、①８月１日に発表した「新」大学案を白紙撤回し、②「意志確認書」の提出要求を撤回し、③現在の都立四大学の構成員とともに民主的な手続きを踏んで、あらためて都立四大学の統合・改編策を検討されるよう、そしてその際、④現在在籍中の学生と大学院生の権利を完全に保証するとともに、⑤経営的視点にのみ偏ることなく、普遍的な大学の理念に立ち返り、人文学部の縮小・廃止計画を見直されることを、切に要望いたします。

　　　　　　　　　　２００４年５月１３日

　　　　　　　　　　　　　　　「中央大学仏語仏文学研究会」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　会長　相磯佳正