法人と大学との一体化は、学校教育法の否定ではないのか?

都立大学人文学部   大串 隆吉


『大学に新しい風を』第 3号(2004年9月6日)より
発行:東京都立大学・短期大学教職員組合
「大学に新しい風を」編集委員会

大学管理本部より提示された法人定款案について、様々な批判・意見が出されて います。例えば、理事長の専決体制であること、事務局長の権限が強大なこと、 学長の選考が構成員によって行われないことなどです。こうした、批判が出てく る根本原因は、法人の組織に大学の組織を組み込んでいること、すなわち、法人 と大学を一体化させているからだと考えます。その結果、学校教育法の条文との 齟齬が生じています。

1.教育研究審議会は法人の組織であって、大学の組織ではありません
 学校教育法第二条(学校の設置者)は、国立大学法人法、地方独立行政法人法 の制定に伴って、大学の設置者として地方独立行政法人と国立大学法人を加えた (注参照)。ということは、地方独立行政法人は大学を設置するのであるから、 設置された大学は法人とは別の機関であって、法人が大学ではないのです。した がって、大学の設置認可と法人の設置認可とは別の手続きになるのです(このこ とは、我々都立4大学の教職員組合が同席して行った全大教による8/6の文部科 学省との会見において、文科省は「首都大学の設置認可は一旦、法人化前の形で 行った上で、直ちに設置者変更の手続きがなされる」と確認しています)(8月 13日発行の「手から手へ」2296号参照)。
 定款案によれば教育研究審議会は、法人の組織です。地方独立行政法人法によっ て、この審議会は法人が設置する各大学ごとに置くことになっていますが、これ は大学の組織ではなく法人の組織です。このことを明確にする必要があります。  ところが、学則案にも教育研究審議会があり、かつ、定款の教育研究審議会と 同じ役割をもつため、教育研究審議会は大学の組織でもあり、法人の組織でもあ るように当局によって解釈されています。そのことは、管理本部作成の「公立大 学法人首都大学東京の組織概要(案)」(3月29日)「地方独立行政法人法にお ける「公立大学法人」制度について」(人事給与制度説明会資料)を見れば明白 です。しかし、このような解釈は法律上からは出てきません。
 地方独立行政法人法は、教育研究審議会は法人の組織であることを規定してい るのであって、それ以上のことはいっていません。すなわち、大学の組織だとは いっていません。法人の組織である教育研究審議会は「当該大学の教育研究に関 する重要事項を審議する」ことになっていますが、それは法人の機関としてであ り、大学の機関としてではありません。

2.大学の機関は、学校教育法によって定められています
 地方独立行政法人法は大学の運営原則について定めていません。では、それを 定めた法律はないのでしょうか。そんなことはありません。それを定めたのが、 学校教育法です。
 学校教育法第59条1項は、「大学には重要な事項を審議するため、教授会を 置かなければならない」と規定しています。教授会が大学の「重要な事項を審議 する」のです。この規定は、国立大学法人法、地方独立行政法人法が制定されて も変わりませんでしたし、私立大学でも適用されている条項です。しかも、「重 要事項を審議する」教育研究審議会(国立大学では教育研究評議会)の規定は加 えられていません。どいうことは、教育研究審議会は大学の組織ではなく、法人 の組織であることが明確になのです。
 したがって、法人が「大学の教育研究に関する重要事項を審議する」のが教育 研究審議会であって、大学が「重要な事項を審議する」のが教授会なのです。

3.大学の組織と法人の組織とは別です
 このように考えれば、大学の重要な事項、あるいは重要事項を審議する機関は、 法人と大学にそれぞれあることになりますから、法人の機関と大学の機関は別に なります。それを一体化したような図は成り立たず、それによって、教授会の役 割をせばめるという理屈は成り立たないのです。大学の重要な事項を審議するの はあくまで教授会なので、法人の教育研究審議会ではありません。
 以上のように理解すれば、法人と大学の機関とは別の組織であると考えるのが、 法律の正しい解釈ではないでしょうか。そうであるなら、学則と定款とは明確に 区別すべきです。すなわち、学則には、教育研究審議会を置く必要はなく、従来 通り、教授会を基礎に評議会を置けばいいのです。学校教育法がその点で変わっ ていないのですから、これは当然です。これは、国立大学法人でも同様で、公立 大学の教育研究協議会にあたる教育研究評議会は大学の組織ではないのです。
 例えば、国立大学法人奈良教育大学学則は、第一章国立大学法人奈良教育大学 と第二章奈良教育大学にわけ、教育研究評議会について第10条で「法人法第21条 の規定に基づき、教育研究に関する重要事項を審議する機関として、法人に教育 研究評議会を置く」として、教育研究評議会は法人の組織であることを明確にし ています。そして、教授会については第二章奈良教育大学第5節(第29条)で、 「学教法第59条の規定に基づき、本学に教授会を置く、2、教授会に関し、必要 な事項は、別に定める」として、大学と法人の運営機関を明確に分けています。 ただし、法人の規定を学則に入れているのは正しくなく、学則とは別にすべきで あって、ここに法人と大学の関係について理解が混乱しています。
 ちなみに、地方独立行政法人法と国立大学法人法によって変わった学校教育法 の箇所は、第二条の「学校の設置者」の規定で、地方公共団体に加えてカッコで、 「地方独立行政法人法(平成15 年法律第118号)第68条第1項に規定する公立大 学法人を含む。次項において同じ。」と追加されました。したがって、学校の設 置者である公立大学法人が、学校の経費を負担する義務があることとなります (学校教育法第5条)。
ところが、地方公共団体の規定は地方自治法により、都道府県、市町村を意味す る普通地方公共団体と特別地方公共団体にわかれています(第1条の3。注参 照)。公立大学法人は普通地方公共団体にはなれませんから、特別地方公共団体 にしかなれません。地方自治法では特別地方公共団体は、特別区、地方公共団体 の組合、財産区、地方開発事業団しか規定されていません。したがって、公立大 学法人は奇妙な地方公共団体、地方自治法では特別地方公共団として規定されて いないのです。地方自治法に規定されていないような、このような公立大学法人 を作ること自体に疑義が生じて当然でしょう。

<注> 学校教育法
第2条 学校は、国(国立大学法人法(平成15年法律第 112号)第2条第1項に 規定する国立大学法人及び独立行政法人国立高等専門学校機構を含む。以下同 じ。)、地方公共団体(地方独立行政法人法(平成15 年法律第118号)第68条第 1項に規定する公立大学法人を含む。次項において同じ。)および私立学校法第 3条に規定する学校法人(以下学校法人と称する。)のみが、これを設置するこ とができる。
2 この法律で、国立学校とは、国の設置する学校を、公立学校とは、地方公共 団体の設置する学校を、私立学校とは、学校法人の設置する学校をいう。
第5条学校の設置者は、その設置する学校を管理し、法令に特別の定のある場合 を除いては、その学校の経費を負担する。
地方自治法
第1条の3 地方公共団体は、普通地方公共団体及び特別地方公共団体とする。
2 普通地方公共団体は、都道府県及び市町村とする。
3 特別地方公共団体は、特別区、地方公共団体の組合、財産区及び地方開発事業団とする。