「意思確認書」について

                 2004年2月11日 弁護士 尾林 芳匡

 大学管理本部は本部長山口一久名義で都立4大学教員に宛てて2月10日付で「『首都大学東京』就任承諾にあたっての意思確認書の提出について」と題する文書を発し、2月16日を期限として署名捺印の上で提出することを教員に求めている。しかし、これらの文書には多くの疑義がある。

 1 移行の法的手続

 現在進められている現行都立4大学の統合は、現行の都立4大学の人員・設備により設置される移行型地方独立行政法人(地方独立行政法人法59条2項)であり、教員は原則として法律上当然に新しい公立大学法人に身分を承継される。移行型であることについては、管理本部も繰り返し言明している。

 大学の設置認可手続上も、大学を既に設置している者が「当該大学又は当該大学の学部若しくは当該大学の学部の学科を廃止し、その職員組織、施設、設備等を基に、他の大学を設置しようとする場合」に教員審査を省略できる(「大学の設置等の認可の申請手続等に関する規則」1条)とされているところ、現在の準備手続は教員審査の省略を前提としている。

 このように、現在準備されているのは、現行都立4大学の移行型地方独立行政法人であるし、既存の教員組織を基にする以上、勤務条件について何らかの変更をもたらすことは法令上予定されていないものである。

 2 就任承諾書とは異なる「意思確認書」

 今回の文書は、「就任承諾書提出に先立って」行うと記載する一方で、「時間的にも本調査は最終の意思確認」と記載している。

 認可申請にあたり作成・添付される教員の「就任承諾書」は「就任承諾書 年 月 日 申請書 宛 氏名 捺印 私は○○大学設置認可の上は、○○学部○○学科○○担当の専任の教員として、 年 月 日から就任することを承諾します。」と記載する文書(「大学の設置等の認可申請に係る書類の様式及び提出部数」様式4号その3)で、学部や学科および担当科目が明記される。

 今回の「意思確認書」は、この就任承諾書ではない。そして就任承諾書提出に「先立」って行う「最終の」確認だとしている点には、論理的な意味での矛盾があり、全体として理解困難な文書である。

 少なくとも「意思確認書」は設置認可申請のために法的に必要な文書ではないし、予備調査でありかつ最終であるとの矛盾した記載もあり、その法的意味は不明確であるというほかはない。強いて解釈すれば、正式な意思表示に先立つアンケートであって、かかるアンケートとしては最終のものである、ということであり、それ以上の法的意味は見出しがたい。

 3 教育課程や職務内容・勤務条件との関係

 管理本部が現在進めている準備手続では、教育課程の編成等の作業が現行4大学の意思決定機関である評議会・教授会の議を経ずに進められている。このため教育課程や職務内容・勤務条件が不明確なままとされている。

 職務内容として、たとえば「エクステンションセンター」の教育・研究内容は不明確であるし、他の新しい名称が付された学部・学科の内容・体制もいまだ十分には明らかにされていない。

 勤務条件についても、たとえば管理本部は「任期制」導入を提示しているが、他方で今回の文書では「特に問題を起こさない限り再任」とも記載している。今回の文書の記載通りだとすれば、それはもはや法的意味での「任期制」ではなく、その意味するところや従来の提示との整合性は不明である。

 また給与水準についても、管理本部は任期制を選択しない場合には現行の昇給規定の適用を廃すると提示していたが、今回の文書には「現状の給与水準を維持する」と記載しており、この意味も不明確である。

 今回の文書自体が「勤務条件の詳細がわからなければ、就任するか否か判断できないというご意見もあるでしょう」「これから・・・勤務条件等の詳細を決定していく考えです」と記載しており、勤務条件が決定されていないことを認めているところである。

 このように職務内容や教育研究体制が不明のままで、かつ勤務条件も不明のままで「意思確認書」の提出を求めることは、それ自体不適切であるし、仮にかかる「意思確認書」を提出する者があったとしても、それは何ら法的効果のあるものではない。

 4 手続保障の欠如

 今回の文書は、その法的意味が不明であるばかりか、職務内容についても勤務条件についての従来の管理本部の提示との関係でも不明確な点が多く、教員の側でも慎重な検討を必要とする点が多い。そうであるにもかかわらず、管理本部はこれを2月10日付で発して2月16日を提出期限としている。これでは、教員の側の検討と意思決定に必要な期間がとうてい保障されているとは言えない。

 5 現在の都立4大学をめぐる事態と管理本部の社会的責任

 現在の都立4大学をめぐる事態は、大学管理本部が2003年8月1日に突然従前の検討体制を破壊して一方的に「任期制」「年俸制」の導入を宣言したことが原因となって生じている。法科大学院設置にあたっての混乱の責任も、大学管理本部にある。

 管理本部は、大学の自治の理念をふまえ、速やかに教育課程の編成等の作業を現行都立4大学の意思決定機関である評議会・教授会における討議に委ねるべきであるし、教職員の勤務条件については従前の提示に固執することなく職員団体との誠実な交渉を行うべきである。

             以 上