国立大・国際水準以下の新大学(「大学に新しい風を」編集委員会定款検討グループ)

国立大・国際水準以下の新大学――エスカレートした大学管理強化

（経営準備室資料7/9の問題点）

「大学に新しい風を」編集委員会定款検討グループ(2004.8.9)

『大学に新しい風を』第３号（2004年9月6日）より
発行：東京都立大学・短期大学教職員組合
「大学に新しい風を」編集委員会

7/9の第４回新大学設立本部経営準備室運営会議において、定款などを含む重要な資料が出されましたが、数々の問題点が見受けられます。もとより定款は、法人の目的・組織などを定めた「法人の憲法」に相当するものであるにもかかわらず、大学に対して意見を求めてきたのが7/14で、提出締切が7/23（大学により 7/27）とあまりにも短期間であり、これだけ重要な問題を全くの形式的な意見聴取ですませて、12月都議会での決定の運びとしているのは、極めて重大な問題です。内容的にも、事務局長の権限が学長を上回るとか、理事会の議を経て理事長が決定するという合議制の仕組みが存在しないなど、「学問の府としての大学」にふさわしくないやり方がさらにエスカレートしています。国際標準としての「高等教育に関するユネスコ勧告・宣言（1998、1999）」で述べられている大学の水準から大きく立ち後れているだけでなく、同じ非公務員型の国立大学法人と比べても大きな欠陥を抱えており、少なくとも国立大学法人並みの大学とする必要があります。

１．事務局長（副理事長）の権限は、実質的に学長を上回る
　事務局長を副理事長にすえるという重大な法人組織の改悪案が今回発表されました（資料４）。事務局長は、人事委員会と研究費評価・配分委員会の両委員会の長として、大学の人事と金（研究費）の両方に権限を持つことがすでに発表されており、学長を大幅に上回る権限を持ち、筆頭の副理事長としての権限を有する位置付けがなされていることは重大です。大学の基本的使命は、学術の中心として研究を遂行し若者を教育することにあり、直接に現場で関わる教員の代表である学長に重要な役割と権限が付与されるべきことは、先に法人化された国立大学の例を見れば明らかです。管理本部案の通り、事務局長が学長を越える権限を有することになれば、経営的観点が優先される危険性があります。都からの派遣職員である事務局長が、このように法人の主要な権限を握るということは、裁量権を実施部門に移し主体性を持たせるという、独立行政法人設置の本来の主旨に反する仕組みです。このことは、昨年7月以前に存在した新大学設立準備委員会の法人化分科会においては全く検討だにされなかったことです。

２．大学で自主的に選出した旧大学の総長・学長に残り任期があっても罷免できる
　定款案の附則4で「旧大学の設置後最初の学長の任命は、第11条第３項の規定にかかわらず、知事の指名に基づき、理事長が任命する」。つまり、旧大学の総長・学長は、残りの任期があっても、新法人発足とともに、知事の指名により理事長が任命でき、任期は４年（附則6）とされ、大学が自主的に選出した学長を罷免できる規定となっており、学則および大学自治の無視であることは明らかです。すなわち、旧大学が存続している間は、旧大学の学則が適用され、この学則によって旧大学の学長が選出されねばならないはずであり、定款はその学則を無視することになります。一方、新大学についても、国立大法人では法人化以前から在任していた学長を、自動的に文部科学大臣が任命し、また法人化を迎えた今年3月末日が任期の場合は、旧設置法による選考会議で選考されたものを学長の申し出に基づき大臣が任命することとなっており（任期は従来の期間）（国立大学法人法附則2条）、大学自治に対する基本的考え方が大違いです。
二代目の学長の選考については、新大学と同様に「旧大学の学長は、旧大学ごとに置かれる選考会議の選考に基づき、理事長が任命する」と定款案の附則7、8で示しており、民主的な選挙が廃止されようとしていますが、これも、現都立４大学の学則を認めないということであり、各大学で行われてきた慣例・規定は無視し、それぞれの評議会・教授会の権限は認めないということを意味します。これは、学術の府としての伝統を破壊するという点で、非常識の極みであり、このような規定は撤回し、現大学の学則を尊重するという規定とすべきです。下記7に示す方法や国立大と同様の方法で大学の自主的な選任を尊重して、任命することも十分に可能です。
　一方で、現都立４大学の条例を廃止する条例を本年度中に通してしまえば、現都立４大学の学則も無効になる可能性があります。しかし、本来大学の廃止という重要事項は教授会・評議会が審議して決定する必要があるので、それを無視すれば学校教育法59条1項（大学には、重要な事項を審議するため、教授会を置かなければならない）に違反することになります。

３．理事長を学長の上に置くことが、国立大との最大の相違点
　これまでの新大学の法人化に関する最大の問題点は、国立大では、理事長＝学長であるのが、公立大では、学長を理事長とは別に任命することが可能という規定です（地独法71条1項）。理事長は、学長の任命権者であり、かつまた法人の主要な事項を決定できます。これは、重大な規定であり、どのような人物が理事長になるかにより、新旧大学を含む法人全体に重大な影響を与える可能性があります。
　理事長を学長の上に置く仕組みを持った新大学の仕組みは、知事や経営者（理事長）が経営的観点から大学運営に関して学長と教員を従属させることを可能にさせることに主たる目的があるとの指摘が、多くなされています。これとは対照的に、大学の基本的使命である学問研究と若者の教育という人類的使命・責務を遂行する上で必要な学問の自由と教員の地位・権利を守るために、その代表である学長に最高の権限が付与されるという国際常識が、国立大法人では一応守られています。この国立大学法人に近づけるためには、定款に「学長は理事長をかねることが可能」という規定を入れることが、当面、重要な課題です。これによって、今後の新大学の運営において柔軟に対処できる可能性を与えることになります。

４．新大学の目的規定は、短期大学に近く、地域貢献のみを目的とし普遍性を軽視
　「この公立大学法人は、大都市における人間社会の理想像を追求することを使命として、大都市に立脚した教育研究に取り組み、都市環境の向上、ダイナミックな産業構造を持つ高度な知的社会の構築、活力ある長寿社会の実現を目指すことを目的とする」（定款第１条）とあり、この案では、「大学の目的」として地域貢献の追求のみを掲げています。すなわち、自治体全体としての行政目的がそのまま大学の目的とされ混同されている結果、大学の持つもう一つの側面である普遍的な価値を生み出すという重要な役割がまったく取り上げられていません。「大学は、学術の中心として、広く知識を授けるとともに、深く専門の学芸を教授研究し、知的、道徳的及び応用的能力を展開させることを目的とする」（学校教育法第52条）という大学の普遍性はほとんど無視されています。
　そもそも学問の特性から考えて、大学の地域貢献は、学問・研究の普遍的な成果を基礎にしてなされるべきです。このような点から、この定款案は、むしろ短大を規定した学校教育法第69条2項「深く専門の学芸を教授研究し、職業又は実際生活に必要な能力を育成することをおもな目的とする」に近いか、あるいはここで規定された「深く専門の学芸を教授研究し」という規定も存在しないことから、専門学校程度とも考えられます。これらのことから考えて、新大学の定款は、学校教育法52条や大学設置基準に抵触すると思われます。
　くわえて、このような定款の目的規定は、基礎学問を軽視し、実学優先と経営主義に偏重した大学（専門学校というべきか）の設計指針というべき内容といえます。このような規定では、時々の首長らの恣意的な政策により研究教育が左右されないための歯止めが全くありません。

５．理事会の議を経て理事長が決定するという合議制の仕組みが存在しない
　「理事会」という規定がなく、理事会の議を経て理事長が決定するという合議制の仕組みが存在せず（資料10）、理事長がワンマンであれば、ほとんどあらゆることが決定できる制度設計の仕組みであり、一部の私立大学と類似した仕組みが提案されています。合議制の仕組みが存在しないために、理事長に問題が生じた場合には、知事が「職務上の義務違反、業績の悪化」に基づき解任する（地方独立行政法人法17条）以外に歯止めがかかりません。
　国立大法人法では、「中期目標についての意見、年度計画、大臣認可承認事項、予算作成・執行、決算、学科等の重要な組織の設置・廃止など」の重要事項の決定は、「役員会の議を経て学長（＝理事長）が決定する」（11条2項）となっています。地方独立行政法人法にこのような条項が欠落している点は重大な欠陥ですが、新大学法人のための定款で、国立大と同様に理事会を置き、学術の府にふさわしく審議に基づき決定する仕組みとするように規定する必要があります。
審議の場として理事会（役員会）がない代わりに、法人運営にとって経営審議会が重要となる可能性があります。経営審議会は、理事長が長で、副理事長、理事、学外有識者（３名以内）を構成員としています。学長が主宰する教育研究審議会と比べて、予算および決算、組織編成だけでなく、人事に係わる計画といった大学の重要事項のすべてが、事実上決定できます（これは、管理本部が当初に述べていた経営と教学の対等な分担とは大違いです）。そういう点から事実上、重要事項の審議はここで行われると考えられます。しかし、経営審議会の議に基づき理事長が決定するという規定がないので、理事長の専決権で決定することも可能です。特に、「その他法人の経営に関し、理事長が重要と認めた事項」（定款第 18条7項）の規定に基づき、理事長が経営事項と認めればどんなことでも決められるのです。これでは、理事長の裁量的・恣意的判断が強く及び過ぎるので、もっと客観的な判定基準を設けた規定とする必要があります。

６．教員の社会的責務にふさわしい比率で理事として選出されるのか？
　理事の構成は、理事長、副理事長（＝事務局長）、副理事長（＝学長）、理事３名以内で合計６名以内と発表されています（資料10）。少数の役員が法人全体の中枢を握る体制、および、５で述べた合議体としての理事会の規定がないという仕組みは、理事長の専権体制を可能にする制度設計となっています。また、大学の主たる使命が、学術の府として教育研究にあり、その大学教員の社会的責務にふさわしい比率で教員が理事として選出されるべきことは自明の理です。しかし理事長の任命する理事については、教学の出身者の数が未だに明らかにされていません。

７．学長の選出は、選挙制度をなくし学長選考会議による少数での談合か？
　二代目以降の学長は、理事長を議長とし、経営審議会と教育研究審議会から各々３名の委員の計７名という少数で構成する「学長選考会議の議を経て、理事長が任命」と教員等の大学構成員による学長の民主的選挙を否定する方式となっています。これでは、少数による談合に近い形での選考となり、大学構成員の民意を反映しない学長が選任されることになり、学術の府にふさわしくないものです。一方、同じ非公務員型である国立大では、議長は互選で選ぶとともに、教員の意向を聞くために、学長選挙を存続させるように学則等の形で教育公務員特例法の精神が、引き継がれ、民主的選挙で選ばれる仕組みが作られています。したがって、初代の学長を知事が選任し任命する点も、大学の自主的な選任を尊重する国立大とは大きく違う点です。これは、地方独立行政法人法の大きな欠陥の一つです。知事は、大学の評議会・教授会の議に基づいて学長を任命することも可能ですが、それを拒否してきました。

８．任期付職員および人材派遣会社職員で代替では、大学の質の低下を招く
　教員と共に大学運営の両輪となるべき法人固有職員の配置を、今後は、任期付職員と人材派遣職員によって代替しようとしています。すなわち、都からの派遣職員としての常勤職員（再任用職員を含む）および再雇用職員（1年以内、更新4回まで）の代わりに、任期付職員として、幹部職（3年以内、更新可。年俸制）、専門職（1?3年、更新可。要資格の業務で、時給月給）、一般職（1年以内で、更新2回まで。月給）とパート職員（2ヶ月以内）および人材派遣職員（3年以内、更新なし）で代替する方針です。「コスト比較の上、人材派遣、委託の活用を含めて検討」と人件費コスト削減のために検討していくことが明白に述べられています（資料５）。
　任期付雇用ですから、任期満了で自動的に解雇される不安におびえた不安定雇用で、その結果住宅ローンも借りられない身分で、果たしていい人材が集まるのでしょうか。また、都からの派遣職員についても、常勤職員は、3年以内で10年まで延長可としていることも問題です。大学運営に欠くことができない専門家として育った職員、大学の業務を知り尽くしている職員を現在でも約1年の短期間で、別の都の部局に移動させていますが、これは人材の非常な無駄遣いです。結局のところ、現在のテクニシャン・司書など専門的な技術職・事務職が大学において不可欠のスペシャリストとして重要な役割を担っていることを軽視するとともに、長期的にスペシャリストを育成するという観点が全く欠如しているのです。
　このように、教員と協力して学生を育成する主体としての事務部門の専門家を育てつつ配置する配慮が根本的に欠落しており、世界のCOEといわれる優れた大学では、同じ職場に20年以上ものベテランのテクニシャンなど専門的な技術職・事務職が育成されているのと比べて、著しい質の低下が危惧されます。有期雇用の職員へと代替えすることは、支援・管理の質を下げ、大学の教育研究の質を切り下げ、教員の事務的作業の負担を増大させるものであり、学生も十分なサービスが受けられなくなります。私立大学ならば、学生が十分なサービスを受けていないと感じることは経営の危機に直接つながりますから、多くの有力私立大学では、事情を知り尽くしたベテラン事務職員が計画的に養成されているのです。

９．地価の高い短大の敷地等を東京都はなぜ出資しない？
　大学の財産として、南大沢と荒川キャンパス（日野は建て替え等の工事完了後）のみの敷地・建物が、都から出資（譲渡）されますが、地価の高い短大の敷地と建物（晴海と昭島）は、貸与であり、譲渡されません（資料11）。一方、昨年 11/27発表の「東京都産業科学技術振興・基本指針」には、秋葉原ITセンター（06年3月全面開設）に「サテライト連合大学院」を置いたり、城南地域（太田、品川）に、「ナノテクノロジーセンター」の研究拠点や産業技術大学院を置くとともに、東京臨海地域にも拠点を置くことが述べられています。都はこれら３箇所を重点的に研究拠点として整備する方針であり、新大学がそれに貢献するとされています。そこを新大学が使用すれば、ビルのスペース借料の支払いなどで、法人の財政的負担が増大するのは明らかです。そもそも大学の財政的基盤の安定のために、資産価値のあるキャンパスの存在は重要なはずです。これらの整備だけでなく、運営費交付金の水準がどうなるかという法人の存立にとって重要なことが、未だに発表されておりません。財政的基盤いかんによっては、授業料等の値上げなどが必要となります。これほど重要なことが、現在に至るまで全く示されていないということは不思議なことです。このような無展望な財務構造では、新大学設置を食い物にする利権構造があって、一部の業者を潤すために法人がいじり回され、最悪の場合、法人が解散して大学が消滅すると疑われても致し方ないでしょう。

＜付記＞
　以上に問題点を述べましたが、新大学構想がもたらした「新大学の危機的な現状」について触れておきます。
　大学管理本部側が如何に喧伝しようとも、①100名に及ぶ優秀な教員の大量流出および流出予定（昨年の４大学教員数601人のうち485人しか新大学へ行かない）とその速度が加速していること、②大学入学志願者数の激減と質の低下（偏差値と応募希望者数は、日本の大学史上で最大の下落。37万人参加のベネッセ主催総合学力模試の結果）、そして③大学院説明会への外部からの参加者の激減、および④教員公募への応募者の激減と質の低下、といった数々の客観的指標は、新大学が受験生、大学院生、教員、都民・国民にとって魅力の無いものであることを表しており、大学の活力となる学生・院生・教員のすべての面から崩壊が始まっていることを示しています。
　大学の教育・研究の質は人によって決まることは、世の常識として知られていますが、経営の善し悪しにより優秀な頭脳が結集するのか、流出するのかが決まるので、人の動きは経営判断の重要な指標とされています。新大学発足前に既に内部崩壊が始まっており、新大学に対する低い評価が客観的に現れたという残念な現実は、まさに「経営指標の下落」を疑問の余地なく明白に示しています。高橋宏理事長予定者は、教員への任期制の採用と単位バンク制等により「新大学は効率化により4、5年で黒字にする。そのために人件費を削る」（「財界」6/8 号）と、私立大学型の経営を目指していることを述べています。しかし、新大学の運営に関わる基本問題として、「教授会の人事権の剥奪」と「任期制・年俸制による身分の不安定化」などが招く教育研究の質の低下について、多くの教員が懸念しているという事実や、「人文学部の事実上の廃止」等の強引なやり方が、上記のような経営指標の激変を招いたことに対して、新大学の責任者である理事長予定者と西澤潤一学長予定者は、感じ取る能力を持っているのでしょうか。また現在の４大学との開かれた協議体制を拒否し、多くの現場教員や学生院生の声を無視し続けて上意下達で大学再編を一方的に進めてきた大学管理本部に、この危機にたいする責任意識がないのでしょうか。（以上）

国立大・国際水準以下の新大学――エスカレートした大学管理強化

（経営準備室資料7/9の問題点）

「大学に新しい風を」編集委員会 定款検討グループ(2004.8.9)

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