法人組織に関する意見(2004年10月25日)

東京都立大学総長 茂木 俊彦




法人組織に関する意見

2004.10.25

東京都立大学総長 茂木俊彦

1.法人と大学との関係について

 提案された仕組み全体について、法人組織と法人が設置する大学の諸組織との 間に混同があり、両者の区別と関係が整理されていないことは問題である。私立 学校における場合と同様、公立大学法人において、地方独立行政法人法を根拠に 設立される法人と、その法人が設置する大学とは、両者が緊密な関係を持って運 営されなければならないことは当然としても、両者一体ではない。さらに東京都 の場合、地独法第71条中の但し書き規定を適用して理事長・学長を分離する方式 をとったが、その主旨は経営に責任を持つ理事長と教学に責任を持つ学長とを別 個の人格とすることで、経営と教学とのそれぞれの責任を明確にして両者の協力 関係を取り結ぶことにあるものと解される。そうであればなおさら、経営に責任 を持つ法人組織と教学に責任を持つ大学組織との間の役割・責任の十分な区別が つけられることが求められるはずである。
 いたずらに法人と大学との間の関係を不明確にし、教学上の責任事項の多くを 法人組織で直接決定していく仕組みをつくることは、関係諸法規に照らして多々 の疑義があるばかりではない。大学運営は、国公私立大学という設置者の違いを 超えて、教授会・評議会など教員の合議制に基づいて行われてきたが、それは決 して学校教育法・教育公務員特例法等の諸法規がそれを定めていたことのみによ るのではない。わが国だけでなく世界の大学が、教育・研究という大学の果たす べき機能の特性に照らして、長年の歴史的経験を重ねる中でつくりあげてきた叡 智でもある。もちろんこの慣行は時代の変化に対応して修正すべき点は修正され るべきである。しかし、慣行の基本から大きくずれる方式で進められている新大 学の準備が、先の「見解」(2004年10月7日)でも指摘したように、教務・ 入試準備などですでに深刻な遅れと支障を生じさせていることは明白であり、こ の一事を見るだけでも、いま提案されている仕組みでは、発足後の新大学及び並 行して存続する現大学の運営に重大な支障を来す危険性の高いことが分かろうと いうものである。円滑な大学運営に有効でかつ諸法規上の疑義のない仕組みにす べきである。

2.教員人事について

 たとえ新任教員の採用が法人と当該教員との間の労働契約として行われるとし ても、私立大学の場合も含め、その選考は教授会をはじめとした大学教員組織に おいて行われ、学長の申し出に基づいてその採用手続が行われることが基本であ る。しかるに提案されている仕組みにおいては、教員身分をもたない事務局長が 主宰し、事務局幹部職員・外部委員など学内教員以外の者が多数加わる人事委員 会を法人組織として設置し、そこに教員人事に関する重要な権限のすべてをゆだ ねた上で、その下部組織としての教員選考委員会が新任教員選考等を行うとされ ている。しかも、人事委員会は教員選考委員会の個別選考を審査する権限も有す るとされている。
 このような制度設計は上記1に照らして重大な疑義があるばかりでなく、大学 にとって最も重要な事項の一つである教員人事において公正性をめぐる社会的疑 義を生ぜしめ、ひいては新大学の社会的信用を失墜させかねない。このことは単 なる杞憂ではなく、今回公表された昇任人事手続の大学にあるまじき杜撰さにも 現れているとおりである。新大学は公立大学法人の設置する大学であり、とりわ け教員人事における透明性と公正さが高く求められることは当然であり、社会的 疑義を生ぜしめる余地のある人事制度はとられるべきでない。

3.教育課程編成権限について

 教育課程の編成に関する権限が教授会に属することは再三にわたって指摘して きたとおりである。また学位設計委員会及び科目登録委員会が教育課程編成その ものであることもすでに指摘してきた。しかるにこの両委員会が、法人の「意思 決定システム」の一環に位置づけられ、依然として法人の下におかれる組織とさ れている。これまた重大な問題であり看過できない。これらの委員会が法人の組 織ではなく大学の組織であることを明確にしたうえで、各学部教授会のもとにお かれる組織とするか、または各学部教授会代表者による協議調整機関とし、その 決定内容は各学部教授会において承認されてはじめて決定が発効するものとする べきである(現都立大学の教務委員会や一般教育委員会等がその例である)。

4.教育研究審議会について

 法人発足に伴い廃止が想定される組織として評議会が、またそれに係る「管理 職」として評議員が挙げられている。これは評議会の廃止を自明のこととして扱 う考え方に基づいていると見られる。しかし、2005年4月以降も当分の間存 続する現都立大学の運営にとって、提案されている教育研究審議会の構成はきわ めて不十分である。法人化されるとはいえ現に存在する大学が基本的にそのまま 継続するのであり、運営面で見ても存続する現大学の組織・学則等の変更は、最 小限に留めることが当然に望まれることである。本年4月発足した国立大学法人 各大学の例に鑑み、現都立大学評議会をそのまま教育研究評議会(審議会)とし て存続させるべきである。
 関連して指摘しておくと、各学部・研究科の教授会は現大学の学生・院生等の身 分、学習権等にかかわって責任ある審議・決定を行うことが必須であり、そのた めにも法人化による不可避な変更以外は行わず、現在担っている役割・機能を継 承する仕組みにするべきである。
 また新大学に設置される教育研究審議会についても基本的に同様である。都立 大学はじめ公立総合大学にこれまでおかれていた評議会は、大学全体の意思決定 機関であるとともに、評議員で構成される大学執行部の大学運営の執行について、 各学部・研究科教授会等からの意見を集約して必要な是正を図る上で重要な役割 を果たしている。こういう事実は尊重されるべきであり、教育研究審議会はその ような役割を継承するにふさわしい構成とするべきである。具体的には学長・副 学長・部局長に加え各学部から複数の代表者が参加する構成とすべきであり、と りわけ大規模学部となる都市教養学部については学系長等が加えられるべきであ る。


以上