4大学教員声明呼びかけ人会声明(2004年8月3日)


声明   「新大学を巡る危機的状況に対し,全ての関係責任者に緊急対応を求める」


文科省大学設置審は、人文学部を中心に就任承諾書非提出者が25名にのぼった ことにより、4月に提出された「首都大学東京」の設置申請内容と7月3日提出 の書類・資料の内容との間に大きな変更があるとして、早期認可を見送った。こ の管理本部の予想を越えた数の非提出者が出た背景には、新大学の運営に関わる 基本問題として、教授会の人事権の剥奪と任期制・年俸制による身分の不安定化 などが招く教育研究の質の低下について、多くの教員が懸念しているという事実 がある。新大学の責任者である高橋宏理事長予定者と西澤潤一学長予定者には、 この基本問題の解決策を提示し、新大学への参加を考えている教員が安心して教 育研究に専念できる環境を早急に整えることを求める。
さらに、来年度からは、法人化される新大学の発足と同時に、現4大学と新大学 が少なくとも2010年度まで併存することになる。その場合、在籍学生と新入学生 の双方に対する教育研究が十全に保障されなければならない。これらの点に関連 して、現在は新大学の形式的開学準備作業に追われているのみであり、現4大学 と新大学の併存に備えた運営上の多くの課題、事務組織、教員組織、カリキュラ ムなどに具体的な対応策が検討されていないことに、私達は非常に大きな危惧を 感じざるを得ない。
私達は、こうした状況を心底から憂慮し、責任ある立場に立つ関係者(理事長・ 学長予定者,都大学管理本部,現4大学執行部)が、以下に指摘する現状の問題 点に関して、その打開に向けて早急に具体的な方策を考え、実行することを強く 求める。

1.新大学運営に関わる新たな問題:新大学法人の定款

 前述の通り、新大学の運営に関わる重大な基本問題として、教授会に人事権が ないこと、任期制・年俸制による教員の身分の不安定化が教育研究の不安定化に 直結することが、既に指摘されている。最近、新たな基本問題として、新大学法 人の定款案が注目される。大学管理本部案によれば、「事務局長が学長を越える 権限を持つ」様に位置づけされている。大学の基本使命は、次の世代に有為の若 者を教育することであり、直接に教育の現場を担当する教員の代表である学長に 重要な役割と権限を付与されるべきことは、先に法人化された国立大学の例を見 ても明らかである。管理本部案の通り、事務局長が学長を越える権限を有するこ とになれば、経営的観点が優先される危険性がある。
さらに、管理本部案によれば、教員と共に大学運営の両輪となるべき法人固有職 員の配置が、任期付職員と人材派遣職員によるとされており、教員と協力して学 生を育成する主体としての事務部門の専門家を育てつつ配置する配慮が根本的に 欠落している。

2.新大学構想に起因する大学の内部崩壊の現状

 新大学構想について大学管理本部側が如何に喧伝しようとも、優秀な教員の大 量流出と、大学入学志願者の新大学に対する低い評価という現実は、新大学発足 前に既に内部崩壊が始まっていることを明白に示している。
 まず、現在の4大学に在籍する優秀な教員の大量流出が既に始まっており、そ の速度が加速していることである。就任承諾書の非提出者は表面上は25名である が、新大学へ移行しない教員としては、その他に、意思確認書を提出せず就任承 諾書以前に移行を拒否した者(法学部一部教員、経済学部COEグループ等)がお り、また、他大学への転出者がいる。4大学教員の数は、昨年の時点で合計601 人(助手を含まず)であったが、新大学への就任承諾書を提出したのが485人で あり、2003年度、2004年度の2年間で116人減少することになる。これは、他大学 への転出者と退職者(定年退職者を含む)の総数が、91人にものぼり、およそ 100人近い数の教員が都立4大学から出ていったか、あるいは出る予定ということ になる。大学の教育・研究の質は人によって決まるものであるとは常々言われる ことであるが、都立の大学においては、まさに優秀な教員の流出による崩壊が始 まっているのである。さらに、最近のベネッセ主催総合学力模試の結果では、新 大学受験希望者の大幅な減少と偏差値の低下が報道されている(注)。これは、新 大学が受験生、都民・国民にとって魅力の無いものであることを表しており、大 学の活力となる学生の面からも崩壊が始まっていることを示している。
このように内部崩壊が既に始まっている背景には、私達が声を大にして正常な協 議体制による現場教員の積極的な参加を求めてきたにもかかわらず、大学管理本 部が現在の4大学との開かれた協議体制を拒否し、都市教養学部の設置理念や構 成を受験産業に委託したり、一部教員を取り込んだ上意下達の新大学作りを強行 して、多くの現場教員や学生院生の声を無視し続けて一方的に進めてきたとい う、昨年8月1日以降の推移がある。この危機的な状況を生じさせた責任が大学 管理本部や理事長・学長予定者にあることは明白である。

3.現大学との継続性を無視し、全体の展望を持たない新大学移行作業の危機的 な現状

4大学の現場では、新大学への多量の移行準備作業が、現大学との継続性を無視 して行われていること、新大学の全体を見通した展望のないまま進められている こと、などに失望感が高まっている。この準備状態のままで来年4月に新大学の 開学を迎えた場合に生じる混乱がどこまで波及するのか、現場の憂慮は管理本部 で正確に把握されていない。
現大学との継続性に関する最大の問題点は、在籍学生に対する少なくとも2010年 度までの学習権の保障とそれに見合う教員の確保と処遇問題である。たとえ、来 年4月に新大学が開学したとしても、新大学の学生数は、大学院学生も含めた全 体の2割に過ぎない。2010年度までの現大学に在籍する多数の学生に対する学習 権の保障は、昨年以来、山口(前)管理本部長自ら言明した通り新大学の責任者 が第一に具体的措置を講じるべき事項である。それにも拘らず、現在は来年4月 の新大学開学準備のみが優先されている。その結果、新入学生と在籍学生に対す るカリキュラム保障の確認やそれに必要な教員や職員の確保などが放置された状 態にある。
このまま推移すると、時間の経過と共に新大学の不備の全体像が明確になるにつ れて、教育者として責任を持てなくなり、就任承諾書の新たな撤回者が出る事態 も十分に想定される。

4.現4大学との開かれた協議体制の一層の必要性

以上の通り、来年4月の新大学への移行に向けた現状は、危機的な状態にある。 この危機的現状は、教員の教育研究を通じた社会的倫理的責務・使命の遂行に必 要な学問の自由のための教員の地位・権利の保障という憲法23条や高等教育に関 する国際常識としてのユネスコ宣言(1998年の「21世紀の高等教育宣言―展望と 行動」、および、1999年の「高等教育の教育職員の地位に関する勧告」等)の精 神を認めない大学管理本部や理事長・学長予定者の基本的態度に起因している。 同様に、「最も重要な要素である自主性に常に配慮しつつ、大学側と十分に協議 しながら双方の協働作業として進めていくという姿勢が何よりも必要」と述べて いる公立大学協会見解(昨年10月2日)からの逸脱もまた、この危機を招いた主 要な原因である。これは、大学の自主性・特質の無視、教員の基本的人権・権利 の蹂躙であるとともに、都民・国民・人類に対する教員の使命遂行への挑戦であ り、教育基本法10条(教育行政)、学校教育法59条(教授会)、教育公務員特例 法などの諸法令に対する冒涜である。これらの事態を打開するために、4大学教 員声明の会は、関係者に次の諸点に真摯に取り組むべきであることを提起する。

第一は、最高責任者である理事長予定者および学長予定者が、上記に述べた基本 問題の重大性を認識して、早急に解決策を提案し、現大学との開かれた協議を開 始すること。
第二は、大学管理本部長は、現大学の学生に対する学習権を保障するために、A 類学生とB類学生とに対する教員・職員の配置と確保を行うこと。そのために、 現大学の執行部との協議も含めた準備作業を速やかに開始すること。
第三は、新大学学部長予定者は、新大学準備については、恣意的立場を捨てて、 公平で透明な運営を図る立場に立つこと。この点については、理事長・学長予定 者の責任問題に直結することを指摘する。

5.新大学への移行時期について

 通常、大学の改革は2年以上の期間をかけて慎重に準備し実行するものであ る。しかし、新大学(「首都大学東京」)においては、昨年8月1日の突然の新大 学構想の発表から1年余りで移行作業を行おうとするものであり、加えて、上述 のように在籍学生と新入学生に対して別個の大学が学習環境と学習権の保障を両 立させなければならないという重大な問題を擁している。新大学については、時 間が無いことを唯一最大の理由にして拙速に開学し、今後の長期に及んで禍根を 残すのではなく、1年間の準備期間を追加して、新大学と法人のあり方に関して 十分に事前検討を行って将来の発展の見通しを持った新大学を目指すことも選択 肢に入れることを、新大学の最高責任者である理事長・学長予定者に求める。

(注): http://fine.cab.infoweb.ne.jp/hs-online/doc/nyushi/2005-nyushi/shibou-doukou/moshi-3nen6m/daigaku-data/

2004年8月3日

4大学教員声明呼びかけ人会
東京都立大学人文学部:飯田勇、川合康、西川直子、初見基
東京都立大学法学部:米津孝司
東京都立大学経済学部:浅野皙
東京都立大学理学研究科:甲斐荘正恒、神木正史、小柴共一、三宅克哉
東京都立大学工学研究科:渡辺恒雄
東京都立科学技術大学:山田雅弘,湯浅三郎
東京都立短期大学:前田庸介

連絡担当者
都立大学人文学部  川合 康 kawa@bcomp.metro-u.ac.jp
都立大学理学研究科 小柴共一 koshiba-tomokazu@c.metro-u.ac.jp
都立大学工学研究科 渡辺恒雄 tsuneo@eei.metro-u.ac.jp
都立科学技術大学  山田雅弘 myamada@cc.tmit.ac.jp