2004年11月17日
「都立大の危機 --- やさしいFAQ」読者のみなさまへ
「ポーカス博士」と「ほーかす君」の対話という形式で1年以上書き続けてきましたが, 本日をもって,この対話を終了させることに致しました。以下,その主な理由を 述べます。
- 【都立大問題の質的変化】(最大の理由)
都立大と東京都(大学管理本部)の対立の図式は,いわゆる条件闘争の段階に 入っています。条件闘争に関する中身は,時時刻刻と変化し, その具体的内容を書くと直接的に条件闘争に影響を与えることが予想されます。 条件闘争をする側の論理は理解できますが,根本的なところで戦わなければ 無意味だと私は考えます。おそらく,このページの読者にも, このような条件闘争の報告をしても, ただ落胆と失望の感を与えるだけでしょう。乱暴な言い方をすれば, 「意見の違う者同士が,手打ちをする」(信じられないような妥協をする)とい うことです。このような状況を,ポーカスはいちいち取り上げて両方を非難する 気はありません。
例えば,東京都側が「単位バンク」をやる,と言っても, 大学側では,「実質的な内容を変える」ことを目指して交渉しています。 これは,うまくやれば「単位バンクという名前は残っても,中身はない」 という状況を作り出すことができます。そうすると,都知事とか役人は 「単位バンク」を作ったと主張できますし,大学側は,あれは中身はない んだ,と説明できます。- 【研究への復帰】(第2の理由)
ポーカスとほーかす君の対話を毎日書くためには,非常に多くの下準備が必要です。 情報を入手してから,噂話としてすぐに書いてしまうこともありますが, 大抵は裏をとり,情報を集め,関係者と直接・間接的に公開できる範囲を打ち合 わせたりします。過去1年強の間,毎日数時間このために費やしてきましたが, そのために自分の研究が進展しないままになっています。それほど最先端のこと を研究しているわけでもありませんが,他の研究者が自分の書く予定だった内容に 極めて近い内容の論文を発表しているのを見ると,非常にくやしい思いがします。 研究のために購入した本も山積みになっており,そろそろ本格的に研究生活に戻 らないと,私も淘汰されてしまいます(「人文科学の研究者は, ろくに大学にもこないで遊んでいる」という言葉を聞くことがありますが, それはステレオタイプ的な妄想で,私の専門分野でも競争は存在します)。 自分でも,十分な研究ができない状況に対して,ストレスがたまりつつありますし, 手をつけたい seeds がたまっています。
他方で,私は, この「やさしいFAQ」に取られた時間を後悔しているわけではありません。 このようにさまざまな人達に語りかけ,読んでもらえる場を持てたことは, 私にとって貴重な経験でした。何よりも,実世界での反対活動に空間的制約から なかなか関与できなかったため,私の精一杯の闘争だった,と言えるでしょう。 これからも,黙っていない大学人として生きて行きたいと思いますが, 研究と教育に時間をかける生活に復帰することを決心しました。- 【健康上の問題】(第3の理由)
2003年8月1日以前は,規則正しい生活と適度なスポーツをしていたのですが, 昨年9月以降,この「やさしいFAQ」を書き始めてから,生活のリズムが徹底的に 変わってしまいました。その結果,昨年末から今年初めにかけては病院通いを 余儀なくされ,一ヶ月前の人間ドックでも2つ再検査のお墨付きをもらってしまい ました。 このままの生活では,再検査に行く時間すらとれないという状況です。 慢性的な睡眠不足,運動不足を解消し,もう少し健康な状態に戻りたい, と思っています。
以下では,言い残したいくつかの点に言及します。
- 【ポーカスは負けたのか?】
2004年11月14日の「都民の会」での報告で話したように, 現状では都立大学は惨敗,そしてポーカスも負けた,ということになります。 「東京都から教育を変える」と叫んだ石原慎太郎東京都知事の強権ぶり, その暴言の数々には呆れるばかりですが,その影響は残念ながら全国に飛び火 しています。横浜市立大学だけでなく愛知県立大学でも, 「改革」と称した「大学解体」が進んでいます。なんとしても, これらの流れを止めなければなりません。しかし,この一年あまりの間に 痛切に感じたのは,大学の教員の中にも,「自分の研究ができればそれでよい」, 「自分の研究のための資金が調達できればそれでよい」とする研究者が多く 存在すること,「大学なんてどうなっても自分の卒業だけ保障されればいい」 と考える学生が多く存在することが一番の大きな障害だったと言えるでしょう。 私も,自分が潰される分野に属していなかったら, これほど運動に徹することができたかどうか,疑問でもあります。
今回の運動の中で,「他人事として傍観している罪」というのを 身を持って体験しました。世の中には様々な不条理と戦っている人達がいます。 そのような人達は,社会の中では少数派に属します。そして, 情報化が加速する中で,指導者層はますます力をつけ, 簡単に多くの人達の意向を無視して「改革を断行」できる状況になっています。 もやは,黙っていては駄目なのです。どこからも,スーパーマンやウルトラマン (古くてすいません) のような正義の使者はやってきません。指導者層は,何か新たなことをやる 時に,「これは改革だ」と叫ぶでしょう。「反対する者は,保身である」 と言うかもしれません。これと戦うには,一人ではできません。 多くの人々が集まって、綿密に計画を練って対抗していかねばなりません。
それでも,ポーカスはまだ最終的に負けてはいない,と思っています。 それは,都立4大学の統合形である「首大」の学則がまだできあがっていない こと,地方独立行政法人の定款が決まっていないこと,法人への就任承諾書 がまだ控えていること, 一年後の新たな構想に基づく大学院の設置審査があること, そこでもまた就任承諾書を求められることが予定されているからです。 そこでも,都立4大学の教員は,反対の意思を明確に示すチャンスがあります。 最終的な決着はまだです。
「首大」が2005年4月に出来上がっても, その基本構想の間違い,制度的間違い,教育に対する誤解は, やがて厳しい社会からの評価にさらされることでしょう。 そこで,最後の審判が下されます。ポーカスは,「首大」のような構想の 大学は,やがて社会の厳しい評価の元で滅ぶと予想します。もし, 「首大」が今の構想のまま大学として成立し,受験生や社会,大学の研究者や 教育者に高い評価を得ることがあれば,ポーカスは自らの負けを宣言します。 望むらくは,教育・文化・福祉に広く深い見識を持った知事が登場し, 「首大」も新たなスタートが切れるとよいのですが。- 【今後の予定】
今後も,「緊急情報」の欄と「資料集」に関してはできる限り続けていくつもり です。「新聞・雑誌記事」のコーナー,「声明」のコーナーも私がやっています が,これも多分続けていきます。時間さえ許せば,kubidai.com の方に,投稿す ることは考えています。
私は,3月で退職し,転出します。この「やさしいFAQ」 は,どこか他のところへ引っ越す予定です。これからも(少なくとも2005年 3月までは),非就任者として, 都立大で起っていることを記録し,公表し続けるつもりです。それが, このような惨事を二度とどこかで繰り返させないための重要な資料となる, と考えるからです。- 【反省】
「ポーカス博士」と「ほーかす君」の対話という形式は,分かりやすさを念頭に おいて作り出した苦肉の策です。「一人芝居」は, 一面で問題への切り込みを分かりやすくしましたが, いったい誰がこのような主張をしているのか, という点で責任逃れのように感じられた方もおられるのではないでしょうか。 このような形式をとったがゆえの問題だったと反省しています。
さらに,それぞれの質疑応答に最終更新日をつけるべきだったというのも, 大きな反省点です。どの時点で有効な話なのかを明らかにするためです。 最初は,常に全体を新しく保とうとしたために, 各応答に更新日をつける必要を感じませんでした。思いきって,blogのように, 時系列で並べてしまった方がよかったかもしれない,と考えたこともあります (実際,後半部分では,時系列でシリーズが組まれました)。- 【感謝の言葉】
当初,都立大の学生を意識して「やさしいFAQ」を書き始めました。 「問題のありかが分からない」,「やさしく解説して欲しい」という要望が学生 からあったのがその理由です。しかし,だんだんと問題は拡大していき,都立の 4大学全体の問題,東京都の教育介入の問題,日本全国の国公立大学の問題と 際限なくテーマが広がっていってしまい,結局,そんなに「やさしい」ものではなく なり,膨大な量になってしまいました。
一部,誤解されている方もおられるようなので,ここで明言しておきますが, 「やさしいFAQ」を書き始めたきっかけも,書き続けたこと自体も, 人文学部の執行部とは全く無関係です。この「やさしいFAQ」は, 私個人の思いつきであり,情報はさまざまな人から提供してもらいました。 人文学部の内部の方だけでなく,都立大の他学部の教員,学生や院生, 科学技術大学の教員,学生,その他学外の方などです。情報提供をして下さった 方々に改めてお礼を申し上げます。時には間違いを指摘して下さった方々にも, 感謝しています。自分では間違いに気づかなかったようなことも,それらの人々 の指摘により訂正することができました。激励のメールもたくさん頂きました。 それらの激励がなかったら,ここまで続けてこれなかったと思います。 有難うございました。- 【最後に】
ポーカス博士は,私と等しい関係にはありません。私が電脳空間に存在させた, 架空のキャラクターです。ほーかす君も,実世界にはいません。 実世界の私と出会って,私のことをポーカス博士と呼ばないようにして下さいね (私がポーカスと似たキャラクターだと思うのは自由ですが)。
今後,このポーカス博士と似たような人物が,都立大の中から再び生まれ, 情報を発信していってくれるといいのですが。
最後に,書こうと思っても情報が集まらずに,うまく書けなかった噂話を列挙します。 噂ですので,信じないように(いつものパターンです)。
「単位バンク」は初年度は試行するだけらしい。「単位バンク」は, 当面は学内の授業だけを対象にするらしい。 任期制・年俸制も形だけで,年俸制なんてすぐに実現できないらしい。 各種評価委員会が作られても, 実質,ほとんど何の評価もできないらしい。 インターンシップを全学年で導入なんてできないらしい。 ナノテクセンター構想はつぶれたらしい。 オープンユニバーシティ参加予定の短大教員は, 「面白い講座を開け!」とカツを入れられたらしい。 飯田橋のオープンユニバーシティの授業をやる予定の建物には, 教育用の設備は何もないらしい。未来塾は,たった2年間の重点事業らしい。 管理本部の職員は,3月で移動になるから,山積みの仕事もそれほど 苦にならないらしい。管理本部で都立大担当の人は、「その他」係りで, たった3人らしい。西澤学長予定者の大学紹介に寄せた文章は, 管理本部が一所懸命に修正したものらしい。Hocuspocus, hocuspocus!