都立大の危機 --- やさしいFAQ

K.   首大の「単位バンク」に関する質問


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K-1  ところで,「首大」では,単位バンク制と かを導入するといっているけど,いったいどんな制度なんですか?  次へ

ポーカス博士

単位バンク制というのは,簡単にいえば「他の大学などでとった単位を認定する制度」 じゃ。基本的にこれまでも都立大を含めて多くの大学が「単位互換制度」 と言って行ってきたものなのだが,これにおそらく制限をつけずに もっとどんどんやるということのようだな。現状でも制度の範囲内でおよそ半 分の単位を外で取ってくることが可能だし,海外の大学の単位の認定制度もある のじゃが。

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K-2  ふーん,でもいろいろな大学の単位が無制 限に認定してもらえるなんていい考えかもしれないな。 でも,多くの先生たちは反対しているんでしょ,なんでだろう? 次へ

ポーカス博士

それはな,無制限に他の大学の単位を認めると,なんのために特定の 大学に選んだか分からなくなるだろ。 「首大」に入ったのに,W大学の単位だけで卒業できるなんてことになっ たらおかしいと思わんか?
カリキュラムというのは,その大学の特定の専攻で考え抜かれて作られているんだよ。 だから,W大学の同じ専攻の科目だからって同じ内容をやっているわけじゃない。 ひょっとして,W大学の方が簡単に単位がとれるなんていうと, そっちで単位を取るなんて学生がでてくるかもしれない。
もちろん,他の大学で単位を取るためには, 受講手続きが必要になって1コマずつ受講料がかかることも忘れてはならんな。 学生にとっては,外で単位を取るためには, それ相応の経済的負担がのしかかるということじゃ。

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K-3  なるほど, ただ単位互換制度を拡大しても学生の勉強にとって必ずしも有益なわけじゃあな いんですね。 でも,そうするといったいなんでまったく新しい制度のようにして「単位バンク」 という言葉を使うんだろう? 次へ

ポーカス博士

それはね,アメリカでやっている単位互換制度だという話をどこかで聞いたからだ ろう。本当にどういう経緯で制度ができたかなんて,きっと調べていないのでは ないかな? 世間にアピールするためには特別な言葉が必要だし,「単位バンク」 を使って「入りやすく出にくい大学」を作る,と宣言すれば,それなりに新しい ことをやるような気がするだろう。それが狙いよ。実際に,いろいろな大学の単位 を制限なく認めたり, 青年海外協力隊に参加したとかも単位にしてしまえば,出やすい大学 になるんじゃないかな?

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K-4  えっ,青年海外協力隊に参加しても単位が もらえるんですか? それっていったい誰が認定するんですか? 何の単位に なって何単位もらえるかって難しくありませんか? 次へ

ポーカス博士

2004年2月3日の教学準備委員会で出てきた案では, 「単位バンク」を運用するにあたって, 「科目登録委員会(仮称)」「学位設計委員会(仮称)」が作られる らしいな。 「科目登録委員会(仮称)」は,「学内・学外の授業科目等を一定の基準のもとに評価し、 基準をクリアーした科目を『単位バンク登録科目』として認定する」。 その委員会の構成メンバーは 学内の教員と外部有識者(企業経営者など)となっている。 以前の案では,大学の先生が単位認定にかかわらないような形が提示されていた が,修正されたようじゃ。しかし, この委員会の課題として「単位バンク登録科目の認定」を挙げ, 学外の授業科目等を評価するとなるとおおごとだ。 V大学のXという授業は「単位バンク登録科目」として認定するが,W大学のYとい う授業は認定しないというようなことをやったら,これは他大学への越権行 為と見なされるだろう。 「学位設計委員会(仮称)」は,「新大学が授与する学位の設計を行う」 となっているが,どのような学位が適切かをキャリアカウンセラーと連携して 決定するそうじゃ。この委員会の構成メンバーは, 学長,副学長,部局長などと,外部有識者,キャリアカウンセラー だそうだ。各学部専攻で特定の科目を履修して単位を取得しなければ, その分野での学位は取得できないはずなのに, そのシステムを無視して学生にあった学位を出すなどということは, できないはずだ
 「青年海外協力隊」というのは1つの例にすぎないが, ホーカス君が言った通り,何の単位になるのかな。 その時の単位数の基準はどうするのかな。たとえば, 「実社会体験演習」とかをでっちあげて,3ヵ月海外に行っていたから3単位, 10ヵ月行っていたら10単位とかしたらどうなる。10年行っていたら, 120単位も取れてしまう。新大学では,長期間に渡る履修や履修の中断・再開 を認めると宣言しているから,10年だって大学には在籍できてしまう。そして, 新大学での単位は,その大学に行かなくても取れてしまうのじゃな。ははは。 なんじゃ,この制度は!

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K-5  単位バンクがオバケになったって話を聞いたんです が,いったい何のことなんですか?  次へ

ポーカス博士

「オバケになった」のではなくP-13 で言ったように「大ばけした」(予想していなかったほど大きく変わった)んじゃ。 2004年3月29日の教学準備委員会報告から明らかになった。 この時の配布資料には,単位バンクに関する部分が全17ページ中10ページもあっ た。まだ「単位バンク」にしがみついているのかと呆れてしまって ろくに目を通さなかった人も多いが,よく見ると大変なことが書かれていた。 <他大学の授業やボランティア活動を単位として認める>という制度から, 単位として認定するための基準とそれを評価する委員会が必要だとの 認識が出てきた。その結果,同じ基準で学内の授業も単位バンクに 登録しようという発想になった。その結果,次のような重大な 疑念が浮上したのだ。

(1) 「科目登録委員会」が学内すべての授業の詳細な評価(≒検閲) をする機関として機能する可能性が高い。
(2) 「首大」の授業でも「単位バンク」に登録されず,開講できない授業ができ る可能性がある。
(3) 単位バンクにある授業が登録されなかった場合,該当科目担当教員は授業をする権利が奪わる。
(4) たまたまある年にある授業の受講希望者が少なかった場合,それだけの理 由で登録から外される可能性がある。
(5) キャリアカウンセラーは,学生に対しての履修相談をしてその学生の キャリア形成に必要な授業科目をアドバイスするが,「科目登録委員会」の 評価が低いと推薦授業にならない。その結果,キャリアカウンセラーの 推薦を得れない科目は淘汰される恐れがある。
(6) 「学位設計委員会」は,学部のコースのカリキュラムを(社会の ニーズを踏まえた)独自な観点から変更できる。


そして,単位バンクを支える組織としての「学位設計委員会」,「科目登録委員 会」の中には,学内委員の他に企業経営者などの外部有識者が入り, 「キャリアカウンセラー」は複数の企業を経験した大学外の人間が担当する。 もう分かるだろう。大学の授業が大学の教員のイニシアティブから外され, カリキュラム設計も学部学科コース単位ではできなくなる。そして,単位バンク からはずれた授業は淘汰され,その教員の給与は減らされ,任期制 によって再任できなくなる可能性がある。 すなわち,単位バンク制度は,今や恐怖の検閲制度へと大転換したのじゃ。
(ここでの記述は,科学技術大学有志による文書 「『単位バンク制』は大学教育を破壊するおそれがある」を参考にしました。)

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K-6   単位バンク制度のもとでは,JABEEの認定が難しいってどういう意味ですか?  次へ

ポーカス博士

JABEEというのは,日本技術者教育認定機構(Japan Accreditation Board for Engineering Education,設立1999年)のことだ。詳しくは, http://www.jabee.org/を見て欲しい。  大学などで実施されている技術者教育が, 社会の要求水準を満たしているかどうかを外部機関が公平に評価し て,一定水準を満たしている教育プログラムを認定する制度だ。 認定を受けるためには,一定のカリキュラムを組み,十分な教育プログラムを 提供しなければならないが,例えば学科あるいはプログラム あたりの認定コストが125万円かかり,認定の維持コストも年間10万円 かかるという話だ。もともとアメリカからやってきた制度で, 国際的に教育水準を 保証して認定するというシステムだから,教員数,教育組織,施設や設備, 財源,総学習時間などがどうなっているかを示す証拠を提出しなければ ならない。単位バンクは,2004年3月29日の教学委員会の資料によれば, 学生を受け取る社会の側の視点を踏まえて、学生が自分のキャリア 形成にとって必要とされる知識・能力を修得するために最適なカリキュラム を、自由に選択し、それを学内外の幅広い教育資源を利用して修得するという 新大学の履修システムだそうだが,例えば「首大」のある学科やコース でJABEEの認定を受けようと思ったら,教員数,教育組織,施設や設備, 財源,総学習時間(1800時間)などがどうなっているかを示す証拠を提出しなければ ならない。そこでだな,うちの大学では, 「自前で用意できないところは外部の単位バンクの教員や 施設,設備,財源でまかないます」といっても認定はしてもらえない わけだ。 ましてや,認定にかかる費用は,各大学で負担しているわけだから, 他大学のJABEE認定教育プログラムを単位バンクに登録してくれ, と要望したら怒られるのが関の山だ。人のフンドシを自分のパンツの一部だと主張するような ものだ(おっと失礼!)。あまりいいたとえではなかったか? ようするにだ,言いたいことは,自分のところで十分な数の 教員,施設・設備をそろえ,教育組織を作り,カリキュラムを組み, 実際に学生が総学習時間数1800時間をこなせますよ,という状態を 認定してもらうのだから,自前ではこれだけしか教員もいませんし, 設備もカリキュラムもありませんが,単位バンクに登録してある 外部の授業を使いますから,JABEE認定をお願いします,とは 言えないのじゃ。 山口管理本部長のまとめ (2004年4月8日) では 「(単位バンクとは)JABEEとは抵触するものではない別途の仕組みである」 と報告されているが,いったい何を 考えているのか?! 工学系の先生達も「そんなことできるわけがない」 と言っていた。
(ここの記述は,科学技術大学有志による文書 「『単位バンク制』は大学教育を破壊するおそれがある」 を一部利用させて頂きました。)

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K-7  いろいろ話を聞いて思ったんだけど, 都知事が主導権を握って新しい大学を作るって言うなら,都立大学を 組み込むなんてことをしないで,本当に一から新しい大学を作ればいいんじゃな いですか? 次へ

ポーカス博士

その通りじゃ。知事の考える「都市」と「教養」にぴったりの人材を 世界的に公募したらよい。大学(university)ではなく,単科大学(college)として徹底的に 個性を出したものを作れば世界的にも注目を集めるじゃろう。
もちろん,科学技術大学,保健科学大学それに都立短大がその構想に積極的に参 画したいというのならもちろんかまわない。都立大学は独自に改革案を策定しておった のだから,「都立の新しい大学」は別に作ってくださいね,というのは 1つの解決策だ。 もっとも石原都知事が,本当に大学における研究や教育を真剣に考えて, それだけの資金を投入するかどうかははなはだ疑問だが。

2004年5月4日,朝日新聞の声の欄に「教育の生命は知事より長い」(今村 喜夫 氏)という投書が載っていた。第一パラグラフはすでに,このFAQの先頭に引用した ので,その後を見てみよう。


 知事構想は新大学の性格や学部の構成から見て、単なる改組というより廃止 と新設と言えるほどの内容である。知事が言うように、問題の多い大学がある と見るのは同感だ。大学を安直にたくさんつくりすぎてしまった。しかし、都 立大学はそんな大学とは違う。
 知事に理想の計画があるなら私財をなげうって、あるいは同志を結集して資 金を集め、私立大学の新設に努力すべきである。それができないなら、大学の 生命線にむやみに踏み込むべきではない。
 知事には都立大学統廃合の権限があるかもしれないが、教育の生命は知事の 任期よりはるかに長い。一知事の発想と大学という公器の重みは比較にならな いことを知るべきである。都立大学は多少の手直しをするにとどめて、そのま ま残すべきだ。
2004年5月4日,朝日新聞声欄 今村 喜夫氏:「教育の生命は知事より長い」


「知事には都立大学統廃合の権限があるかもしれないが、教育の生命は知事の 任期よりはるかに長い。一知事の発想と大学という公器の重みは比較にならな いことを知るべきである。」というのはまことに正論だ。本当に教育のこと を考えて「新しい大学」を作るのなら,「今の都立4大学の施設・設備や 教員を資源とする」のではなく,「私財をなげうって、あるいは同志を結集して資 金を集め、私立大学の新設に努力すべき」である。

最近,S新聞が「石原知事のようにはっきりものを言いたい」というような キャッチコピーで宣伝をしているが,「政治家がただ大きな声ではっきりとものを 言えばいい」と考えるのは大間違いだ政治家は,公人としての顔を 持つわけだから, 特定の人達を差別しないように自らの発言内容に責任を持ち, 特定の主張をする時には きちんとしたデータの裏付けを忘れてはならない。 またその主張を貫く際には, 自らの政治生命を賭けて,信念に基づいて行動し, 自らの政策に関しては隠すこと無く選挙民に対して説明しなければならない。 残念ながら,現東京都知事には,そのような責任感,データの裏付け,正当な信 念,都民に対しての説明義務が欠如している。特定の政策が, 単なる思いつきであってはならない。単に選挙公約だったから何がなんでも 実行する,というのも本末転倒だ。 「大学改革が必要だ」という選挙公約をしたのなら,きちんとした現状分析を して公表し,一部の「知識人」に意見を聞くのではなく,教育現場に関係する 人達や都民からも広く意見を聞いて,時間をかけて議論すべきだ。 知事はたかだか数年の任期。大学での教育や研究は,何十年何百年と続いていく ことを前提にしているのだ。その時の設置者が自分好みに変えるなどということ が,安直に行われてはならない。

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