都立大の危機 --- やさしいFAQ

Q.   本当の改革へ向けて(対話編)


ダイレクト・ジャンプ   Q-1, Q-2.

Q-1  ホーカス君は,都立大学を改革するとしたら, 何を改革して欲しいかな?  次へ

ホーカス君

そうですね,研究面では,つきなみなようですが もっといろいろな専攻があるといいと思います。 都立大には,芸術学部とか医学部とかがないですよね。

ポーカス博士

まず大学の専攻を増やすという件。残念ながら,東京都民の多様なニー ズに答えるだけの学部が都立大学にはない,というのは事実だな。 芸術学部とか医学部というのは,東京の他の大学にもあると考えると, そこまで拡張しなくてもいいのではないか,という意見が当然でてくる。 もう一方では,新しい学部を作るなら,(この財政危機の折り)どこかを つぶせ(Scrap and Build)ということになる。そうすると,今の人文をつぶして, 日野キャンパスに新しい学部を作る, という新大学構想と同じようになってしまう危険性がある。 だから,一口に大学の専攻を増やすというのは,簡単ではない。 可能性があるのは,中間領域の専攻を作るとか, 複数の専攻にまたがった大領域を作って専攻の枠をゆるめるとかだな。 でも下手にカリキュラムをいじると,特定の資格が取れなくなったりするので, 要注意だ。

ホーカス君

それから研究・教育設備を整えて欲しいな。 外国語の授業でLL教室にいったら,今でもフロッピー・ディスクで立ち上げるシステムが 動いていたりして,古さにびっくりしちゃった。図書館だって, 今風の電子図書館にして欲しいと思います。 ネットワークで図書の利用ができる大学って,今はかなり普及してきていますよ ね。当然都立大も電子図書館を目指して欲しいな。それと, 今の大学図書館のWeb上の検索って,あんまり見やすくないし, 分かりづらいので改善して欲しいという意見もあります。

ポーカス博士

研究・教育設備の充実というのは,当然のことじゃ。 がしかし,さっきの LL 教室の件のように,概算要求しても東京都が資金を 出してくれないのが実情じゃ。図書館の電子化だって, やろうと思えば多額の資金が必要になる。図書館を組み込んだ形で, 新たにネットワークを再設計する必要も出てくるだろう。 学内での無線LANサービスを受けられる場所も,まだ限られた所でしかないが, 当然キャンパス全体で使えるようにしないと不便だ。 しかし,これらの基本的な教育設備の充実に, 東京都が特別な予算をつけることは,これまでほとんどなかった。 しかも,大学職員の定数削減が来年度も予定されていて, 図書館職員はたった5名になるそうだ。 これでは,少なくとも教育環境という点だけとってみても, 他の大学とどんどん差が広がっていってしまう。 「お金がかかるから設備の充実ができない」 ということを言っていたら,教育環境はいつまでたっても良くならないじゃ ろう。研究設備とて,科学研究費や外部資金だけですべてやれ,というのでは, 難しいこともある。例えば,新しい研究をやるのに,新たな研究室や建物が必要 になることがある。そんな場合にも,使えるような予算を用意し, 建物や研究室の確保が可能になるようなシステムを作って欲しいな。

ホーカス君

それから,いろいろな研究者の交流の場 みたいなものもあるといいなと思うんです。 以前雑誌で読んだんですけど,アメリカのCMU(カーネギーメロン大学)なんか, 研究者が集まって,くつろいでおしゃべりしたする交流センターみたいな 所があるんですね。ちょっと研究に行き詰まったりストレスがたまったり した時に,行ってみたいなと思うようなくつろげるスペースらしいです。 そしていつ行っても,いろいろと専門が違う人達があちこちで盛り上がって 話をしているとか。共同研究するとか,研究上の新しい発想とかを探し出す というのは,そういう「ゆとりのある空間」が必要な気がします。

ポーカス博士

研究者の交流の場を作るというのは,なかなかいいアイデアだな。 教員だけでなく,院生や助手,学生ですら,そこに立ち寄って, 面白そうなディスカッションに参加したり,見学できるようにすると, 非常にいい刺激になるだろう。ついでに, 共同研究や一時的なプロジェクトを専門にやるような建物も欲しい。 管理本部の新大学構想では,教員を研究・教育業績で厳しく審査し, それに応じて年俸を決めたり,昇格の審査をすることばかり考えて いるが,研究者や教育者の環境を改善することをちっとも考慮して いない。 たずなばかりを力一杯に引いても,馬は一歩も前に進まない ことを忘れないで欲しいものだ。

ホーカス君

卒業する時に, 自分の専門の知識をやっぱり誇れるようじゃなくちゃいけないと 思うから,そういう意味で授業を充実してほしいな。 もっと面白い授業が受けたい, という学生の希望は結構あると思うんです。

ポーカス博士

「もっと面白い授業を受けたい」という希望は,わしも聞いたことがある。 工夫次第で,確かに面白い授業ができると思うのだが, 「授業を面白くすること」がいったい何を意味するのか, 考えておかねばなるまい。「面白い」=「冗談がふんだんに入っている」というのと, 「面白い」=「学問的興味をかき立てる」というのでは,ずいぶん違う。 「冗談が入っているか否か」というのは,今回は問題にしないとして, 「学問的興味をかき立てる」ような授業というのは,もちろん大切だな。 別に都立大に限ったことじゃあないが, やはり優秀な学者でも教え方がへたな人もいる。逆に教えることに情熱的だけれ ども,学問的業績はたいしたことないという教員もいる。 どっちもできる先生がもちろん理想的なのだろうが, 日本中を探しても,そのような教員は少ないというのが現実じゃろう。 じゃあどうしたらいいか? 一つは, 教員の「教える」ことに対しての意識改革が必要になる。 今までの大学の授業は, 難解なことをやって学生が全然理解できなくてもよしとされる傾向があった。 学生は理解するために,一所懸命に自分で勉強する,ということが前提だった。 しかし,今ではそのような前提は崩れているから, 教える方にも工夫が必要になっている。制度的にできることと言えば, 教員の「教育の評価」制度の確立かな。

ホーカス君

そうですね。今でもやってますけど,ちゃんとした教員の教育評価シス テムがないとだめだと思います。 都立大の教養科目だと「ひばりの声」というシステムがありますよね。 学部の授業でもああいうのがあるといいと思います。

ポーカス博士

その通り。教員の教育業績をどのようにして評価するか, という問題は以前から議論されている。学生が授業を評価する, というのはもちろん1つの重要な要素だが,学生によっては, 自分がどの程度その授業に熱心に取り組んだかというのを無視して, 批判ばかり書いてくるようなケースもある。ここらへんは, 学生自身の授業への取り組みの実態も把握する必要が出てくる。 「ひばりの声」というシステムは,随時学生の授業に対する声に 耳を傾けるという意味と,その意見を常に公表するという意味で 極めて重要なものだろう。

ホーカス君

学生の成績評価を改善して欲しい,という要望もありますよね。 今のように,単位を取れば卒業できるとかいうシステムだと, 本当の意味でどれだけ自分が勉強したかは,評価されませんよね。

ポーカス博士

そうじゃ。大学での学生の成績を正当に評価するというのは, 極めて重要だと思う。 「優」とか「A」とかの数が,大学の卒業とか,就職とか, 大学院進学には関係ないと言われるのは, やはりおかしい。以前, GPAの 話をしたが, 重要なのは「単位バンク」 みたいな制度でたくさん単位が取れるという ことじゃあなくて,本当の意味でどれだけ学生が勉強して, どのように評価されたかだ。それがないから, 学生だってあんまり勉強しても仕方がない, みたいな考え方になる。 ただし,GPAだと特定の分野で秀でた成績をあげた学生が 評価されないという問題が残る。その部分をなんとか改善 すれば,導入すべきシステムだろう。

ホーカス君

あと,入学金とか授業料の安い大学というのも,魅力かな。 今の都立大は,東京都民なら入学金が半額になるでしょ。 あれって,やっぱり大きな魅力なんですよ。大学内での, 特別奨学金制度みたいなのがあって, 成績優秀者は授業料が完全に免除されたり半額免除になる, なんていう制度も他の大学にあるんでしょ。今ある留学制度も,学生の経済的負担を もっと減らして,もっと多くの学生が留学できるようにして欲しいと思います。

ポーカス博士

学生の経済的負担を減らす,というのは重要な課題じゃ。 都立大学は,今現在で入学金282,000円,授業料520,800円じゃが, 都民だと入学金が半分(141,000円)になる。さらに,B類と呼ばれた 夜間の学生だと授業料も半額(260,400円)だ。都の財政が厳しいというのは 分かるが,国民も経済的に厳しい状況に置かれている。だからこそ, 教育や福祉には行政側で手厚く保護してやる必要がある。 実際に,大学で勉強したくても経済的に大学へ行けない, という状況の若者もかなりの数にのぼることを行政当局は認識して欲しいものだ。 東京都独自の奨学金制度,海外留学のための奨学金も必要じゃろう。 外部の奨学金制度がどんどん消滅し, その給付額も不十分になりつつある現実を認識して, 「教育からも金儲けができなければならない」といった誤った考えを捨て, 教育には優秀な教員も,完備された施設も,学生に対する経済的援助も必要で, そのためには金の出し惜しみをしない,という態度が必要じゃ。

ホーカス君

卒業後にいいところに就職したいという希望もありますね。 大学院進学の人には関係ないのかもしれないけど。

ポーカス博士

確かにそのような希望もある。今回の改革騒ぎで管理本部がしきりに強調する のは,その部分だな。しかし,「就職率を上げるためには, 就職率の高いと思われる学部・学科を作ればよい」, という単純発想は間違っている。管理本部がよく数字をあげる上智大学 の例では,就職課担当の先生,事務職員が多大な努力をした結果, あのように急激に就職率が上昇し有名校になったのじゃ。 早稲田や慶応のような場合には,OB会の力が強いことは有名だな。 卒業生が社会のあちこちにいて支援してくれる体制がある。 ただ制度だけいじってもだめ。学生の就職に関しても,(1) 本人の努力だけではなく, (2) 指導教授の努力,(3) 就職担当職員の努力,(4) 学生の両親の持つコネの利用など, あらゆる面での努力が必要で,大学の人員削減ばかりやっていると, 決して成功しない。 都立大の就職担当の職員数が全学で2人しかいないという異常事態 (大学改革の話が浮上してから3名いた就職担当事務員を2名に削減して いる)では,当然就職率はアップしないB-4の曽根議員の質問を参照。) 人員を削減して, すべて機械や外部組織にまかせるということをしていては,教育も研究も 学生の就職率も向上しないだろう。



「やさしいFAQ」の先頭へ戻る このページの先頭へ戻る

Q-2  2004年2月28日の日比谷集会で出ていた大学改革への要望をどう思いましたか?  次へ


ポーカス博士

「都立の大学を考える都民の会」の集会アピールに入っていたものだね。 あそこでは番号がついていなかったが,話しやすくするために番号をつけてみ た。
...
そこで、つぎのような大学づくりを東京都と都立の大学に要望します。
(1) 学生、大学院生、教職員の意見を反映させた大学づくりをおこなうこと。
(2) 短大夜間部・都立大夜間部(B類)が積み重ねてきた、社会人・勤労学生への大学教育の機会を充実・発展させること。
(3) 多くの人が学べるように授業料を安くすること。
(4) 障害者の大学教育の機会を充実させること。
(5) 父母・都民に対して積極的に情報を公開し、都民に開かれた大学づくりを行うこと。

この中で特に重要な視点でこれまでに欠ていたものは,(2)と(4)だと思う。

ホーカス君

(2) は,夜間部の充実と発展だけど,もう都立のB類も募集停止してしまったし, 短大だって募集停止しちゃったんでしょ。いまさら復活なんて無理なんじゃない かな?

ポーカス博士

いや,あきらめてはいかん。都立大のB類廃止だって,日比谷集会での学生から の報告にあったように,一万以上の署名を集めて議会へ働きかけ, 募集停止を一年間遅らせることができている。最終的に募集停止になってしまっ たことは,本当に残念なことだ。この要望で大事なのは, 都民のために広く教育の機会を与えることじゃ。 日中働いていても,機会さえあれば大学で勉強をしたいと思っている都民は 確実にいるはずだ。そのような勤労学生の数が現実には少ない, という議論が都議会でなされたようだが, それはきちんとした都民を対象にしたアンケートを行った上での 議論ではない。(3)で言われているように授業料が安くて, 昼間の時間を大学での勉強にあてることができない人達, これらの人達は,社会的弱者でもある。そうした人達に, 教育の機会を与えるのは,公的機関の責任なはずだ。 利益をあげないとやっていけない民間の教育機関でできないようなことこそ, 公的な教育機関が引き受けなければならないのだ。 独立行政法人になっても,東京都から独立するわけではないのだから, このような公的サービスの充実は本来の重要課題だろう。

ホーカス君

確かに,そうですね。都立大のB類で学んだ後で,大学院へ進んで研究者になっ た人の話を聞いたことがあります。昼間の時間に働いていて, 夜に大学に来て勉強している人達って, 本当に大変な生活をしているんですよね。 勉強をする意欲っていうか,動機づけがはっきりしているから, 迫力のある人達が多いなあと思います。ぜひ,なんとか夜間部を作って欲しい。

ポーカス博士

社会的弱者といえば,(4)で触れられている障害者に対しての大学教育の機会を 充実するのも必要だな。大学を完全にバリアー・フリーにすることができれば, 多くの障害者に高等教育の機会を提供する貴重な大学になるだろう。 日比谷集会でも話が出ていたように,日本の大学は十分にバリアー・フリーに 作られていない。そのため多くの障害者が,高等教育を受けるために, アメリカのUCLAのような大学へ留学せねばられないような状況になっている。 大学の施設だけでなく, 教材も授業も, それからアシスタントや支援グループまでそろえることが必要になるが, 公的な大学としての社会貢献として非常に魅力のある姿だろう。 時間をかけてこのようなサポート体制を作っていくことができたら, さすが大都市東京の大学だと皆を説得することができるだろう。

ホーカス君

なるほど。石原都知事が,反対なら対案を出せと言っていたけど, あれって,「都民の会」の5つの要望だってりっぱな対案ですよね。 もっと, こんな大学にして欲しいと都民から要望すればいいんじゃないですか? 東京都だって,東京の行政を司っているわけだから, 都民に奉仕しなければいけないんでしょ。だったら, 一方的に大学案を作って押しつけるんじゃなくって, 都民の声を聞くべきですよね。

ポーカス博士

そう。そして,大学管理本部は, どんな大学の構想案が出来ているかを一方的にホームページで 公開するのではなく, ちゃんと分かりやすい言葉で大学に来てみんなの前で説明すべきだ。 質問を受けて答える,不適切なところは直す, よりよい案にするための議論をすることが必要だな。
 そもそも,大学を一般の会社と同列に並べて, 経営という観点で見直すという発想自体が根本的に間違っている。 東京都が持つ大学の意義が分からない, と言った自民党の都議会議員さんがいたそうだが, 東京都民に対して安い授業料で高等教育を与えるサービスをする, という必然性が分からないのだろうか? 都議会議員も, 東京都庁も, みんな東京都民のために奉仕しているという意識を持っているのだろうか? 都民はもっと声を上げなけりゃいかん。 経済的に苦しい時こそ,今までと同じように, <広く一般に対して学ぶ機会を与える>というサービスを続けることこ そ,東京都の目指すべき大学であるべきだ。違うかな? 今現在の「首大」構想のように, 就職率を気にして,学生に技術や実用的知識ばかりを教えるのは高等教育ではない。 時間が経っても色あせないような人間の知恵, 理念を教え,学生が自主的に考え,研究できる環境を作ることが大切だ。 池上氏(自治問題研究所)が言っていたが,イタリアのボローニャは, 人口30万の都市だが,そこには800年の歴史をもつ大学があり,200の図書館, 40の博物館があるそうじゃ。 人間がこれまで創り出してきた知の結晶を大切にしている都市だ。 ボローニャに負けないように<さすがは,東京都だ> と思わせるような文化的環境を整え,教育・ 研究環境を維持・発展させることを目標にして欲しい。

ホーカス君

一般教養の数学の授業に行ったら, 60人しか入らない部屋に学生が200人も押しかけていた,なんて状況にはして欲しくないですよね。 学費が上がって,少人数教育がなくなって,教育・研究環境が悪くなる, なんていう状態だけは避けて欲しいな。いくら就職率が上がるからって, 学生から学問の自由を奪うようなこともして欲しくない。ぼくには, はっきりいって「首大」なんてどうでもいい,という気もするんです。でも, 都立大がなくなるのは決定しているんでしょ? だったら, その改組・転換後の大学も子孫みたいなものだから,いい大学になって欲しい。 5年,10年たった時に,「ああ,あの大学ね。あの時の改革のせいで, 今はもう全然だめになっちゃったよ。」なんて言われたくない。

ポーカス博士

その気持はよく分かる。それから, 2010年まで存続する現在の都立の大学の教育や研究が 不利にならないように,最善の策を講じてもらわねばならない。 だからこそ,日比谷集会のアピールにあったように:
● 東京都が設けている「都民の声」に意見を言う。
● 東京都・都議会・文部科学省に働きかける。
● 都議会を傍聴する。
がこれからも必要だ。 なんで都議会の傍聴が必要か,だって? 傍聴者がいないと,議員の緊張感がなくなり, とんでもない議論を始めたり,信じられないことに手抜きをしたりするのじゃ。 しっかり見ていなければならない。どの議員がどのような発言をしているのか, それを知って選挙に行かないと民主主義が維持できないことを忘れてはならん。


「やさしいFAQ」の先頭へ戻る このページの先頭へ戻る