Y-1 2004年8月26日,27日に「首大」のオープン・ キャンパスが開かれたようですが,どんな様子だったんでしょうか? 次へ
ポーカス博士
まず,これから話すことは実際に行った人から話を聞いた人からの話だ,
つまり又聞きだから,そのつもりで聞いて欲しい。
オープンキャンパスという名前ではなく,大学説明会という名前で
行われたのは,大学管理本部のホームページでも分かる通りだ。
8月26日の都市教養学部(文系向け)説明会の様子を聞いたが,気になった部分
を箇条書きにしてみた:
(1) 講堂の一階部分の半分が埋まるくらい人が来ていた。
(2) 前田都市教養学部学部長予定者が説明:
(a) 説明がどうも法学コースが中心。
(b) 都市教養学部の文系は,都立大を継承しているから,今までと変わらない。
(c) 学位についても法律・政治学コースならば法学士になるとか,基本的にかわらない。
(d) 従来の学部構成と新大学のコースの対応を重点的に説明。
(<問題となりそうな部分だけをピックアップすると:>
(d-1) 国際文化コースは,従来の人文学部のなかの文学系のものだが,少し異なるもの。(9/5修正)
(d-2) 経営学コースは,経済学部とはちょっとちがうが,より実践的で役に立つ。
(d-3) 法律学コースは,他大学の法学部と違わない。専門家になるためには法科大学院に行く必要がある。
(e) 現大学の構成を「たこつぼ」「縦割り」と非難しておきながら,「首大」でも「専門はきっちりやる」と主張。
(f) コース内で幅広い学習ができることを強調。
(g) 「都市とは心がまえだ」と発言。
(h) 少人数教育における「少人数」とは具体的な人数のことではなく,学生と教員の垣根が低いこと。
(i) 「首大」は入りやすく出にくい大学。
(j) 都市教養学部は、カツ丼屋でエビフライも出てくるところ。
(k) 都市教養学部は、中身が変わらないで偏差値が10も下がったのだから、こんなに得なことはない。
まず意外に来訪者が多く感じたという報告だったが,
実は都立大学南大沢キャンパスで行われた「首大説明会」に参加した
人数は,8月26日が,約1400名,8月27日が約1200名で合計2600名だったそうだ。
昨年度の都立大学南大沢キャンパスにおける「都立大オープンキャンパス」では,
合計約5200名が集まったから,昨年度と比較すると
大学説明会参加者は50%減だったことになる。注1)つまり半減したということだ。
科技大や保科大では,これほどの落ち込みはなかったようだが,
「首大構想」が次第にその全貌を明らかにしつつあることが,世間にも広まって
いるということだろう。
都市教養学部の説明を学部長予定者がやるというのは,当然と言えば当然だが,
(a)〜(i)までの説明の要点をみると唖然としてしまう。
(b) 「都市教養学部の文系は,都立大を継承している」という
継承説をとっているが,都知事と大学管理本部は断絶説をとっており,
繰り返し「新しい大学」と呼んできたことを忘れてはいまい。
きっと,心の中では,断絶説を信仰しているが,説明会の性質上,
継続説を唱えてみたのではないかな?
「都立大」の過去の業績をうまく利用して「首大」に受験生を呼び込みたい,
という意図だろう。経済学部がなくなっていたり,文学部が消えて国際文化
という大所帯の中に押し込められ,都立大教員のおよそ1/4がこの2年あまりで
「首大」を選択しなかったという事実は隠蔽されている。
(c) は法律・政治学コースの話だが,一般的に「〜コース」と呼ぶものが,
従来の「〜学科」と呼ぶものと同じだと説得しようとしているようだ。
「学位がコース単位ででますよ」と呼びかけているのだが,文部科学省は
本当にそれでもよいと考えているのかどうか,知りたいところだ。ちなみに,
都市教養学部には,都市教養学科というたった1つの学科があり,その中が
さまざまなコースに分かれているのだが,ここでは「学科名」は何の意味も持たない。
(d-1) で「国際文化コースは,従来の人文学部のなかの文学系のも
のだが,少し異なるもの。(9/5修正)」
と説明したようだが,これはまたおそれいった。
「国際文化コース」の中に残る都立大人文学部文学科は,規模として1/3〜1/6
のもので,専門でそれぞれの文学を勉強できる体制ではなくなってしまっている。
大幅な人員削減の中心地だったからな。(9/5修正)
(d-2) 「経営学コースは,経済学部とはちょっとちがうが,より実践的で役に立
つ」というのも笑ってしまう。経営学は,経済学とちょっと違うが,
より実践的だというのは,素人でも分かる説明だが,経済学部がないことを
どう説明するのだろうか。
(d-3) 「法律学コースは,他大学の法学部と違わない。専門家になるためには法科大学院
に行く必要がある」という部分。他大学の法学部と違わないというの
は,本当かな? 法学でも,歴史,哲学,社会学にかかわる分野や憲法などは,
あまり重視していないという発言を聞いた気がするが。
(e) 「現大学の構成を『たこつぼ』『縦割り』と非難しておきながら,
『首大』でも『専門はきっちりやる』と主張」している点だが,
以前C-10で説明したように,
専門性を大事にして深く研究するためには,タコツボ的にならざるをえない研究
分野がある。「首大構想」の中では,このような専門性追求型の研究よりも,
広範囲な広がりをみせる実用的応用分野を中心にすると繰り返し主張されてきた。
ここにきてようやく,専門性を追求する分野も必要であるということが,
大学管理本部やこれまで「首大構想」を引っ張ってきた一部の教員にも分かって
きたようだ。しかしな,例えばすでに都立大人文の各分野の専門性は,教員数削減で
ずたずたになっているから,首大学生も専門性を追求する勉強はしづらいだろう。
(f) 「コース内で幅広い学習ができる」というのは,まさに皮肉としか
いいようがない。広く薄く勉強することしかできない体制が多くの人文系
分野では作られるのだから。
(g) 「都市とは心がまえだ」というのは,まことに前田氏の本心なの
だろう。都市教養学部とか都市環境学部とか,「都市」と冠が付いている
のは,東京都の大学だから,「心がまえ」として持っておいて欲しい
というのだろうが,学部の名前に「心がまえ」など不要だ。これも
以前言った話だが,本当に「都市研究」をやりたいなら,都市だけでなく,
農村や漁村の研究も必要になる。人間社会全体に対しての広い視野が必要になるし,
歴史もきちんと理解しなければならない。目先の東京都の問題だけを解決
するのなら,「〜緊急対策委員会」でも作って対処すればよいのであり,
大学での教育研究とはかけ離れた世界である。
(h) 「少人数教育における『少人数』とは具体的な人数のことではな
く,学生と教員の垣根が低いこと」というのも珍説だ。
「一人の教員に対しての学生数が少ない」少人数教育が都立大の特徴であったが,
「首大」では教員数を減らして学生数を増やして経営的視点を重視する
ことになっている。高橋理事長予定者が繰り返し公言しているから,
間違いないだろう。「少人数教育は,なくなるけれど,学生と教員の垣根が低
くなりますよ」なんて,なぜ言えるのか?「首大構想」に,そのような
仕組みがあるのなら教えて欲しい。
(i) 「『首大』は入りやすく出にくい大学」だというのは,宣伝文句
であって,前半しか正しくないことは,
X-1ですでに説明したから繰り返さない。結論は,「首大」は偏差値が
下がっているようだから,「入りやすい大学」になっているが,
「出にくい大学」にはなっていない,ということだ。
「入りやすくて出やすい大学」って,いったい何だ?
そう,それで授業料が安ければ,受験生が殺到するかもしれないが,
学生のレベルはどんどん下がるだろうな。
(j) 「都市教養学部は、カツ丼屋でエビフライも出てくるところ」
とは、笑ってしまうな。「とってもお得ですよ」と訴えたかったのだろうが、
「牛丼屋で牛丼がないところ」なのではないかな。つまり,「都市教養」とは
名ばかりで,「都市教養」という看板を学ぶところなんて無い(「都市教養」
が誰にもわからないから、メニューにあっても出せない、という意味では、
適切な比喩ではないが)という感じではないかな。
(k) 「都市教養学部は、中身が変わらないで偏差値が10も下がったの
だから、こんなに得なことはない」 というのが前田学部長予定者自身の口から
出たというのも驚きというか,笑えるところだ。空いた口が塞がらない。
大量の教員を追い出した結果,今までのような教育体制が維持できないことが
知れ渡っているから,偏差値も下がったのがお分かりではないようだ。
今回の説明会に出た複数の学生の証言によると,「首大」の説明よりは, 「都立大」の見学という色彩が強かったようだ。理系では,具体的に研究室訪問 をして,どのような研究をしているかを見せていたようだが,それは, 今現在の「都立の大学」の姿だ。それを見て,「首大」だと思ってもらっては 困る。今回の大学説明会は,まだ「首大」の設置認可は降りていない時点で 行われたのだから。
注1)
その後の調べによると,都立3大学で行われた2004年夏の大学説明会に
集まった数は以下のようになる。
8月2日:荒川キャンパス(都立保健科学大学):1118名(前年度に比べて103名増)
(昨年8月1日は,1015名)。
8月27日:日野キャンパス(都立科学技術大学):162名(前年度に比べて38名減)
(昨年度7月22日は,200名)。
Y-2 2004年9月の東京新聞夕刊に,「首大」の 大学案内についての記事が載っていたって聞いたのですが,どんな内容だったん ですか? 次へ
ポーカス博士9月2日の東京新聞夕刊の「大波小波」というコラムに「お役所大学?」というタイトル で次のような文章が載っていた。
来春の国公立大学の入試要項が発表され、早くも入学案内までが出回っている。 来年四月から東京都の四大学が統合されて生まれる、「首都大学東京」という 新大学の入学案内もある。この大学の英語表記は Tokyo Metropolitan University。なんのことはない現「東京都立大学」と同じ。ところが、 都立大学の五学部を ”都市教養学部”一つとする新大学の中身は、 現大学とは大違い。しかも正確に言えば、もはや東京都の大学ではなくなるとい う。独立行政法人化されるからだ。
この大学の案内の表紙には ”平成十七年四月開学予定 文部科学省設置認可中” とある。どうやらまだ認可は下りていないらしい。さもありなんと思わせるのは 新大学の謳(うたい)文句。(1)都市環境の向上、(2)ダイナミックな産業構造 を持つ高度な知的社会の構築、(3) 活力ある長寿社会。まるで首長選挙の公約 並みの内容だ。教学側との十分な協議もなしに発足させようとしているらしい 拙速大学の認可に、文科省が二の足を踏むのも道理。
お役所仕事のずさんさは、裏表紙の大学案内図に吉祥寺駅が、現在地と 立川駅近くにもう一つ、計二つあることが象徴している。
(迷える受験生)
ここで話題になっているのは大学案内だな。 東京都庁が表紙の写真の中にそびえているのも不気味だが, たかだか49ページの「首都大学東京」の大学案内には, すでに全部で13箇所の誤記が発見されている。 これらは, 「首大」暫定ホームページで訂正版が提供されているが, その内の2箇所(情報教育とアクセスマップ)は、リンクとなっており, 差し換えページだ。
「迷える受験生」氏の指摘を待つまでもなく第 01 ページにいきなり,
「首都大学東京のめざすもの」というのが、三行赤の太文字で書いてある:
(01) 都市環境の向上
さまざまな環境問題に対し、物質の循環や都市基盤配置の視点から貢献
していきます。
(02) ダイナミックな産業構造を持つ高度な知的社会の構
築
工学系各専門領域の融合と、産業社会を支えるシステムについて、より
人間の立場に立った都市社会を支えるシステムの構築を目指します。
(03) 活力ある長寿社会の実現
意思と保健医療職との十分な連携や、在宅医療等への要請が高まるとと
もに、障害を持ちながら自立して生活する人々への地域ケアのあり方などに貢献
します。
となっている。「これが大学のめざすもの,目標なのか?」というのは,
誰でも考えることだ。同じことが,法人の定款第一条にも言える。教育や学問の
かけらもないのだ。もっとも,この3つの「めざすもの」の上には、小さな字で
首都大学東京では、大都市における人間社会の理想像の追求を大学の使
命とし、特に次の3点をキーワードに、大都市東京ならではの都市に立脚した
教育研究に取り組みます。
と書いてある。「教育研究」は飾りでしかないというのが、このレイアウトで
良く分かる。ようするに,大学の教育や研究の目標,学問の府である教育機関の目標と
いうより,ある自治体の理想的な目標であったり,ある政治家の選挙公約であったり
すれば極めて自然な内容なのだな。まあ,受験生でなくてもびっくりするページ
だ。このすぐ下に、西澤学長予定者の
メッセージ(D-10)が載っているのだからたまらない。わしが受験生なら,
このページを見た瞬間に,「もういいや」と思って,後は見る気がなくなってし
まう。そんな心境をよく捉えたのが,東京新聞のコラムだったわけだ。
吉祥寺が2つあるなんて,笑っている場合ではないのだ。(訂正版の2つ目の
吉祥寺は「西国分」となっているが,これも手抜き。もちろん,
正式名称は「西国分寺」で,武蔵野線への乗り換え駅。PDFファイルだから,
さっさと修正版に切り替えてアップロードすべきだろう。)
Y-3 「首大」の宣伝活動が本格化するって聞いたんで すが,東京都が広告でも打つんですか? 次へ
ポーカス博士
いやあ,東京都が直接何か広告を作るかどうか,分からない。
そのうち,新聞広告とかテレビコマーシャルなんかが登場するかもしれないが,
財政危機の東京都が,そこまでお金をかけるとも思えないとの観測もある(
「大学案内」の紙も,再生紙みたいだったからな)。
でも,ブランドプロモーションとかの中心には,
かつて東京都大学管理本部が理念を外注した,
河合塾が中心になってやるらしい。河合塾のPR誌に特集を組むとか,そこらへんから
始めるようだ。噂話ばかりで申し訳ないが,11月1日には「首大」ホームページ
がリニュアルオープンするとか,ロゴを作成中とか言われている。
アジア各国にうけるようなものが良いとか言われているようだが,笑ってしまっ
た。
そう,河合塾と言えば,ひょっとして「首大」のいろいろな評価とかサポート関係の部署に,
河合塾関係の人達が入ってくるのではないかという危惧もある。
いやはや,以前,管理本部が大学理念の外注をしたとかで大騒ぎに
なった時(C-8,
C-9,
H-7),河合塾大学と命名
したらいいのではないかと話題になったことがあるが,どうやら冗談では
なくなってきそうな雰囲気だな。ただ,受験産業と大学が直接関係するというの
は,いろいろな問題を生む危険性がある。注意して見守らねばならないな。
Y-4 「首大」が 今回の中越地震被災者の大学受験予定者への受験料を免除するほか入学金も 免除するというのは本当ですか?
ポーカス博士ああ,大学管理本部のホームページの新着情報に 「新潟県中越地震に伴う東京都の支援について(第22報)」と 「新潟県中越地震に伴う東京都の支援について(第20報) (被災した受験生への配慮について)」として載っている通りだ。 しかしだな,なかなか感心させられる,と単純に喜んでもいられない。 今回の免除措置は,よく読むと「首大」だけではなく,都立の4大学の 在校生の授業料免除の話も入っている。しかし,マスコミを通じて宣伝する 時は,「都立の新大学は,中越自身被災者に愛の手を差し伸べた」のように 情報が流される。これは「首大」の絶好のアピールなのだ。
今回の支援の内容だが,(1) 首都大学東京を受験する者の入学考査料・入学料の
減額免除,(2) 都立の4大学(都立大学、都立科学技術大学、都立保健科学大学、都立
短期大学)に在籍する学生の授業料の減額免除,
(3) 被災した(首大)受験生について、当面下記の入学試験
にかかる出願期間を延長の3点だ。
東京都は,三宅島の災害に対しても同じような支援を発表しているが,
三宅島が東京都なのに対して,今回の新潟県中越地震は直接的な関係はない。
では,これでどれだけの学生,あるいは受験生が恩恵を受けるのだろうか?
残念ながら,この点に関してはデータがない。ただ,一般論から言えば,
新潟県中越地域で大きな災害を受けた所は,山村であり過疎化が進行している
地域であると想像できるから,受験生や都立の大学の現役の学生の数は
多くないだろう。数名でもそのような被害を受けた人達を救うというのは,
もちろん大切な考えだ。しかし,そのような弱者を救うという視点よりも,
この機に乗じて名前(「首大」)をアピールし,
少しでも知名度を上げておこうという下心が見てとれる。
今回の支援対策を聞いて,不用意に石原都知事に対して
「Good job!」などと言ってはいけない。
「ええかっこしーや!」というのが真相だろう。
さらによく考えてみると,そのような山村の若者が,都市工学を特徴とする
「首大」に入りたいと考えるだろうか? また,「首大」の使命が
「大都市における人間社会の理想像の追求」だから,例えば山村の過疎化の問題を
勉強するには適していない。また,
都市環境の向上,ダイナミックな産業構造を持つ高度な知的社会の構築,
活力ある長寿社会に興味のある山村の若者も少ないだろう。
もちろん,東京に出てきて東京人になるのが夢だ,というケースもある
かもしれないが,それならなにも南大沢にある「首大」に入る必要はない。
ここまで言えば,もう何を言いたいか,わかるだろう?
ようするに,「首大」は普通の大学ではないのだ。東京都の行政と産業
のために学問分野をゆがめられてしまった大学。そのような大学に,
わざわざ新潟県から来て,受験する意味はあまりない。
将来,Uターンして就職するつもりがあるのなら,なおさら新興「もどき大学」に
来る利点はないだろう。