W-1 就任承諾書を出した教員は, 結局「首大構想」に賛成したわけですか? 次へ
ポーカス博士それは,個人個人によって違う。これまで「首大構想」に 積極的に反対してきた教員でも,就任承諾書を出している場合もある。 また,「構想」に基本的には反対であっても, これまで何の発言もせずに,黙って就任承諾書を出した人達 もいる。個人的には,「首大構想」に反対でも, 自分の研究上の立場が脅かされない場所に配属に なるという理由だけで,就任承諾書を出した教員もいる。 最後に,「首大構想」大賛成で就任承諾書を出した人もいる。 総じて,就任承諾書を出したと言われる485人の内には, 「首大構想」に賛成の人も反対の人も含まれているのだ。 2004年になってから,4大学教員声明が出され,その後 の意思確認書騒動あたりから,むしろ「首大構想」に 反対の教員はますます増えているというのが実感だ。 都立大に限らず,本当は基本的に反対なんだという声を 耳にする。
しかし,今,「首大非就任者」と「首大就任予定者」の
関係は微妙な段階にある。「非就任者」は,ある意味で
強烈な自己主張をしたので,さばさばしているが,
不本意にも就任承諾書を出してしまった教員の中には,
落ち込んでしまっている人達も見うけられる。
そんな中で,管理本部からは次々と「首大」の
仕事が降りてくる。カリキュラム,入試に関する
仕事は待ったなしだ。大学の執行部の一部には,
「非就任者」であっても,当然「首大」の仕事をすべきだという
見解を持つものがいる。これは,基本的におかしなことだ。
しかし,こと現実の仕事に関しては,管理本部から
「非就任者は首大の仕事をやってはならない」という
お達しが来ていない。これもおかしな話だ。
悪意のある「首大非就任者」がもし仮にいたとして,
首大の仕事を引き受けて,いい加減にやって大きな
迷惑をかけるという可能性だってあるのに,
あれだけ強行に「首大」に就任する人と,しない人
を区別する発言をしてきた管理本部が黙っているのだ!
一方では,就任承諾書を出した教員が,期限を切られた大量の
仕事を抱えて働いているのを近くで見ていながら,
「非就任者」が何もしないでいると,
まるで「いじめ」が行われているようにも見えてしまうだろう。
これがポスト<就任承諾書>時代の光景だ。
これまで一致してやってきた学部,学科,専攻の
協力体制が崩れていく。教員同士の不信感が募る。
これは,東京都が目指した都立4大学の破壊という
シナリオ通りの事態が進んでいるということでもある。
「首大」が発足して,最初の中期目標が設定され, その中に数値目標も掲げられるだろう。そして,それが 達成できなかった学科やコースは,どんどん削られて いく。任期制で追い出される教員も出るだろうが, このような不安定な大学からは,どんどん教員が流出 していくだろう。そして,シナリオ通りに 東京都による大学破壊は,最終段階を向かえて「首大」すら廃校 になるのかもしれない。
W-2 2004年7月13日の設置審分科会では, どんな議論がでたんでしょうか? 次へ
ポーカス博士
それがどうもよくわからないのだ。実は,7月早期認可が可能だという
大方の予想に反して,7月2日に大学管理本部が提出した就任承諾書,
様式3,学則案がそのまますんなりとは受け入れられなかったという
ことらしい。真相はその内伝わってくるだろう。なにしろ,不十分な
部分は当然手直しをして再提出ということになるだろうから,
具体的な仕事は大学に戻ってくると考えれられるからだ。
7月15日13時に正式発表があるとの噂が伝わり,その前の段階で
早期認可がされなかったという噂も伝わってきていたが,いったい
7月15日13時に誰がどのような発表をするのかが分かっていなかった。
結局,何が真相だったかというと,15日に大学設置審議会が開かれ,
その答申が13時に文部科学省に提出されるのを待って,報道許可が
出るということだったようだが,答申が提出されたのが14時近くに
なったということらしい。
管理本部発表の資料 は,「大本営発表」みたいな資料だから,読み流してもらおう。 マスコミ各社は,それぞれ事前に大筋を知っていたようなので, 15日の夕刊に一斉に報じた。その中でわしが注目した部分を 共同通信,朝日新聞,毎日新聞の中から拾ってみた(特に注目すべき 部分に下線を引いた)。
◯ 関係者は先送りの理由として、4大学から新大学の教員に就く「就任承諾書」
を提出した教員が、4月に都が申請した教員予定者510人から485人に減っ
たことを挙げ、「審査の前提が崩れた」としている。共同通信
◯ ...東京都立大などを廃止してつくる「首都大学東京」については、
継続して慎重に審査するため現段階での認可は見送った。
...
首都大学東京をめぐっては、都の方針に反発する都立大の教員らが新大学での
教員就任承諾を保留するなど混乱した経緯がある。都は都立4大の教員485人
の「就任承諾書」を取り付けて設置認可に必要な教員数を確保して早期認可に期
待したが、審議会は慎重な審査を選んだ。
答申の時期にかかわらず、11月答申までに認められれば、予定通り来春に開
設できる。
朝日新聞
◯ 4月末に都が設置認可を申請した後、30人近い教員
が新大学への就任を拒否し、都が急きょ代替要員を補充したため、審査を継続
する必要があると判断した。毎日新聞
まず共同通信だが,「関係者」の言として「審査の前提が崩れた」という 発言を引用している。もちろんその理由は,4月28日に提出した申請書類に 書かれていた教員と7月2日に提出した就任承諾書が一致していなかったからだ。 その結果,設置審は,「継続して慎重な審査」(朝日新聞) を続けていく必要性を主張したようだ。また,毎日新聞に あげられているように「30人近い教員 が新大学への就任を拒否し、都が急きょ代替要員を補充したため、審査を継続 する必要があると判断した」という部分があるが,これは4月28日の教員配置予 定の中に入っていた教員の一部が,今回の就任承諾書に入っていなかったので、 急遽教員の入れ替えをした案を提出したことを意味する。 例えば,ある教員が4月28日の段階では 「首都大学東京都市教養学部都市教養学科国際文化コース」 (なんと空虚で長ったらしいんだ!)所属になっていたが, 就任承諾書を出さなかったために, 急遽「オープンユニバーシティ」所属教員を「国際文化コース」へと移動させ た,というような場合だ。
「都立の大学を考える都民の会」のメーリングリストにその後流れた 情報には,次のような解説があった(一部抜粋):
...
文部科学省から提示された認可見送りの正式な理由は、4月提出書類と 7月時点での教員配置計画とのズレが大きく、審査の前提が崩れている( から審査はしない)ということ。既に学部での教員配置が25名不足してい たとの情報は公になっているが、「不備」はそれだけではない。公表され ていないが、大学院担当教員でも数十名、非常勤講師では百数十名の「ズ レ」があったようだ。そこで文科省としては7月提出書類(実態)に即し て4月提出書類を書き直せ、という指導になった。
教職員組合の観測では、「経済財政諮問会議」や経済産業省、総務省な どからの「規制緩和」圧力のもとで、文科省、設置審は、理念や制度上の 問題点を十分認識はしていたが、「書類上の不備」として処理したのでは ないか。
...
(「都立の大学を考える都民の会」ニュース8号, 2004年9月23日)
そう,実情は,マスメディアが報じたような20〜30人のズレでは なかったというのだ。 <大学院担当教員でも数十名、 非常勤講師では百数十名の「ズレ」があった> というのは驚くべきずさんな話だ。
今後,どのような審査が継続されるのかは,まだ未知数だ。管理本部が自信たっ
ぷりに,「9月や11月の認可があるさ」,「11月の認可が実は普通なんだもんね」
と言っているが,それまでにこの教員のずれをどのように説明するつもりなのか,
よくわからない。T-10で説明した
ように,実際にこの間,「首大」への就任拒否をしている人数は,もっとずっと
多いしT-8で触れた人文学部教授
会(2004年6月24日)での身分・雇用に関わる諸条件
に関する留保と
学則上の教員人事に関する教授会権限の記載
に関する要望が今後満足に答えられないようなことが起れば,
今度は就任承諾書の撤回への動きにつながると予想されている。
都立大学・短期大学組合の「手から手へ」
(2293号)にも「今こそ開かれた協議を行うべきだ」との意見が述べられてい
る。
はっきりしていることは,2004年9月に予定していた「首大(暫定)大学院」
の入試ができなくなったということだ。東京都は,1ヶ月延ばすとか何とか
言っているようだが,とにかく認可されないことには先へ進めない。
一時は
「設置認可に必要な最低限の教員数が確保されることになり、首大は7月末認可が
濃厚になった」(毎日新聞6/29)と伝えられていたし,
大学管理本部も,明らかに7月の早期認可が確実だとの前提に立っていたから,
これはもう大変な騒ぎだ。
大学管理本部長が栄転した(大学管理本部長だった山口一久氏は主税局長へ)
とかいう騒ぎではない。新管理本部長(総務局行政部長だった
村山寛司氏が就任)は,厳しい状況での船出となった。
W-3 「首大」の定款たたき台が出たと聞きましたが, どんな案なのですか? 次へ
ポーカス博士2004年7月9日に行われた第4回経営準備室運営会議に出た資料の中に, こんな定款(たたき台) が含まれていた。さらに(1) 事務組織に関わる事項,(2) 年俸制に関する事項, (3) 定款に関する事項について意見があれば管理本部へ寄せて欲しいとの 連絡があったようだ。(1)と(2)については7月16日まで,(3)については7月23日 までに事務局庶務課まで提出せよとのことだが,書類をもらったのが7月14日だ から,あまりにも時間がなさすぎる(その後の 「定款たたき台」に対しての意見は,W-10 を参照)。
定款(ていかん)とは,簡単に言うと「法人の目的・組織・業務などを定めた根
本規則」のことだが,法人にとっての憲法のようなものだ。
首大の定款は,まずあまりにも短期間ですべてを作り上げてしまおうというところに
問題がある。「定款(たたき台)の協議スケジュール」という資料によると:
7月9日 第4会経営準備室運営会議<方向性の決定>
7月 詳細調整 本部内,大学,関係局
8月 文部科学省との調整,総務省との調整
9月〜10月 案文調整,関係局協議等
11月 議会事前調整,<最終案決定>,経営準備室運営会議<予定>
12月 都議会第4定例会
となっている。ようするに,大学側として注文をつけられるのは7月23日まで
(学内締め切り)だけなのだ。その後は,大学側とは無縁なところで,どんどん定款案の
調整が進んでいき,12月の都議会にかかって決定,という筋書きとなっている。
まず,いきなり第1条を見て,ぶっとんだ。
第1章 総則
(目的)
第1条
この公立大学法人は、
大都市における人間社会の理想像を追求することを使命として、
大都市に立脚した教育研究に取り組み、都市環境の向上、
ダイナミックな産業構造を持つ高度な知的社会の構築、
活力ある長寿社会の実現を目指すことを目的とする。
(公立大学法人首都大学東京定款(たたき台)より)
まったく,やってくれるじゃあないか。 知事が繰り返し公言した「空虚な言葉」が並んでいる。
大都市における人間社会の理想像を追求 | (→ だから,いったい何を言いたいの?) |
大都市に立脚した教育研究 | (→教育研究のすべてが,大都市と結びつくわけではないでしょ?) |
都市環境の向上 | (→ 大学の教育研究と都市環境を一義に結びつけないで!) |
ダイナミックな産業構造を持つ高度な知的社会の構築 | (→ おお,空虚の極み!) |
活力ある長寿社会の実現 | (→ 東京都の政治課題ですか? 老人天国を作る前に,少子化対策に取り 組まないと。) |
これらのスローガンは,大学の教育研究とはほとんど関係ない。 これらのスローガンは,政治家のスローガンだ。 なに一つ実質的内容を伴わない,ああ,なんと空虚な言葉の響き。これを大学法人の憲法第1条に 入れるというのだからおそれいった。 本来,大学の普遍的な学問追求の精神を謳うべき大学法人の第1条を ぶち壊しているのは,「学問の自由」や「大学の自治」を一切問題に しない「首大構想」の具現化であろう。 「学校教育法第52条注1を読んでから出直し ておいで!」と言いたい。 大学という「学問の府」をここまで地方自治体が自分達のために 徹底的に奉仕させるぞと明確に宣言しているのには,正直言って呆れてしまう。 これで, 「今回の『首都大学東京』については、内容面で学校教育法や大学設置基準に 触れる点が見出されたということではなく、今回教員数等の変更が生じたことを 受けて、さらに審査を重ねることが適当であるとの判断に至ったもの。」( 「平成16年7月15日 文部科学省設置認可申請に関するプレス対応」より) とは,よくもまあ,ぬけぬけと言えたものだ。
定款(たたき台)を理解するための前提として,まず事務組織図(案)とい
うのがある。これを見ると,なんと法人役員の中に理事長と並んで,
学長と事務局長が副理事長を勤めるようになっている。
事務局長が副理事長となるとすると,法人事務局の総務部(人事や資産管理など)
と会計管理部の長としてだけでなく,
研究評価・配分委員会の長としての権力を手にすることになる。
これでは,事務局長がお金も人事もにぎっているという意味で,学長よりも力を持つ
ことになってしまう。こんなおかしな案は,2003年の8・1事件以前の定款案には
なかったことだ。
今回の「首大定款(案)」では,理事会がない。代りに「経営審議会」
がある。
「首大経営審議会」は,議長は理事長,
メンバーは,理事長の他に副理事長(学長と事務局長),理事(理事長が任命),
理事及び理事長が指名する学外有識者からなる。分かりやすく書き直すと
「経営審議会」のメンバー
(1) 理事長,
(2) 副理事長 --- 学長と事務局長
(3) 理事(理事長が任命,学内の人間が選ばれるとはどこにも書いてない。)
(4) 学外有識者(理事及び理事長が指名)
このメンバーで過半数の定足数でもって経営審議会が成立すると規定している
が(第15条第2項),メンバーの定足数がそもそも規定されていない。理事1人,
副理事長2人,理事3人以内(第8条)そして学外有識者の人数不明。
これで議論をして「首大」の重要事項を議決するというのは,欺瞞でしかない。
つまり,理事長が完全に自分で思ったようにできる体制であり,
反対意見を含めて合議するという体制ではない。これじゃあ,三流私立
大学の学則と同じだ,と笑われても反論できないな。
最後に,
「旧大学の最初の学長は、知事の指名に基づき、理事長が任命(任期4年)」,
「最初を除き、旧大学の学長は、旧大学ごとに置かれる選考会議の選考に基づき、
理事長が任命」,
「旧大学ごとに教育研究審議会を置き、学長、法人の規程で定める組織の長によ
り構成」という現都立4大学の教授会を無視した強引な手法が
実行されそうなのだが,その背景は定款の附則の表に書いてあった。
東京都立大学条例を廃止する条例(平成16年度条例第◯号)
東京都立科学技術大学条例を廃止する条例(平成16年度条例第◯号)
東京都立保健科学大学条例を廃止する条例(平成16年度条例第◯号)
東京都立短期大学条例を廃止する条例(平成16年度条例第◯号)
そうだ。現都立4大学の条例をすべて廃止する条例を平成16年度に作っ
てしまうらしい。この点に関しては2つの解釈がある。
(1) 現都立4大学の設置条例を廃止すれば,現都立4大学の学則も無効になる。
(2) 現都立4大学の設置条例を廃止しても,新たに「公立大学法人」を設置して
そこで現都立4大学を位置づけるだけで,そこでは今の都立4大学の学則は「生
きる」。
以前,A-5で「勝手に都立大を廃止することなんかできない」と
言ったが,(1) は,
大学を規定している条例ごと廃止してしまえば,学則なんかなくなっ
てしまうぞ,という考え方だ。そうすると,
平成22年まで継続する現都立4大学は,学則なしの腑抜けになってしまう。
(2) は,大学である以上,法的に学則は必要なので,
学則そのものを勝手に無効にしたり大幅に改正することはできないという考え方だ。
都立大学は,2005年4月になっても存在するわけで,存在する大学の
学則をなくしてしまうことはできない。ただ,地方独立行政法人の下に
位置づけられるという部分は,変わってしまうが,基本的部分を維持しないと,
来年度に残された都立4大学の学生・院生の教育研究が保障できないはず
だ。
定款たたき台では,
現都立4大学の学長を知事が指名して,理事長が任命すると宣言してい
る。 誰がなるかは知らないが,
その4学長は副理事扱いすると附則には書いてある。「首大」だけでなく,
現都立4大学の場合も,評議会や教授会をなくして,一部の教員しか関与できな
い教育研究審議会がすべてを決定できるようにしてしまうという
構想だ。これは明らかに学則の大幅な変更に当たる。
この学則の変更を,法人ができると考えること自体が変なのだ。
学則の改正は,大学の中での手続きとして定められているのだから。
第五十二条 大学は、学術の中心として、広く知識を授けるとともに、
深く専門の学芸を教授研究し、知的、
道徳的及び応用的能力を展開させることを目的とする。
ちなみに第六十九条の二には,以下のような説明があり,「首大構想」は,
むしろこちら(短期大学の規定)に当てはまる(ただし,ここでも
「深く専門の学芸を教授研究し」という部分があるだけ,「首大定款案」より
ずっとまともである)。
第六十九条の二 大学は、第五十二条に掲げる目的に代えて、
深く専門の学芸を教授研究し、
職業又は実際生活に必要な能力を育成することをおもな目的とすることができる。
(2) 前項に掲げる目的をその目的とする大学は、
第五十五条第一項の規定にかかわらず、その修業年限を二年又は三年とする。
(3) 前項の大学は、短期大学と称する。
(4) 第二項の大学には、第五十三条、
第五十四条及び第五十四条の二第二項の規定にかかわらず、学部を置かないものとする。
(5) 第二項の大学には、学科を置く。
(6) 第二項の大学には、
夜間において授業を行う学科又は通信による教育を行う学科を置くことができる。
(7) 第二項の大学を卒業した者は、準学士と称することができる。
(8) 第二項の大学を卒業した者は、文部科学大臣の定めるところにより、
第五十二条の大学に編入学することができる。
(9) 第六十二条の規定は、第二項の大学については適用しない。
W-4 「首大」方式の傾斜的配分研究費が執行されない かもしれないという噂を聞いたのですが本当ですか? 次へ
ポーカス博士ああ,そういう噂があった。そもそもN-13や N-14で言ったように,「傾斜的配分研究 費」を「首大」で実施するというのなら,「ああそうか」で終わるかもしれない のだが,現都立4大学を対象に前倒しして実施するというところから,おかしな話だった。 さらに,「首大構想」に積極的に賛同する人しか応募できないというような足枷 をはめた。そもそも,V-3で指摘したように, 都立大の研究費はまともな研究者ではもうどうにもならないような低額に押さえ られている。それでもって,この「傾斜的配分研究費」を実行するために, およそ半額しか研究費が支払われていないという実態がある。
その後,抗議をしつつも各学部学科では,少しでも予算を取り戻すべく書類を
作成して提出したと聞いている。もしこの僅かばかりの予算獲得ができれば,
継続図書の購入ができると期待していた人文の専攻もある。
しかし,ここで奇妙なことが起った。
平成15年度の争議行為に対する処分を都立大学評議会が行ったのだが,
その結果が東京都の要請より低い処分になった者が1人いた(「戒告」から
「訓告」)。(具体的には,「座り込み」戦術を扇動したとかなんとか,
その程度のことなのだが。)その結果を報告に行った都立大学総長を前にして,
東京都側は「評議会に対して再審査を要求」してきた。都立短期大学では,
同様の組合員の処分を否決した。科学技術大学でも,8月3日教授会審議に
かかって,懲戒処分は否決されたようだ。そもそも,これまでは
東京都側が組合員の処分を求めて
きても,大学側としては独自に調査して,判断を下してきた。
しかし,今回東京都側は,組合員の再審査を行わなければ
「傾斜的研究費配分の執行停止をする」と主張してきた。
組合員の争議行為が,何で都立4大学の予算に関わる問題にされてしまうのかっ
て?
それは単純な理由だ。「言うことを聞かなかったら,金はやらない」という
世間で行われている低俗でもっとも強烈な脅しを使ったのだ。
組合活動なんてどうでもいい,と考えている人も世の中には多い。 ましてや,大学という社会では,組合を軽んじている研究者もかなりの 数になるだろう。しかし,国立大学が法人化され,公立大学も法人化に 向かって突き進んでいる現在,法人の元での組合活動は,なくてはならない ものとして位置づけられるようになっている。不当な扱いを受けたら, 組合が法人と対決して組合員を守るというのは,正常な労使関係なのだ。 ましてや,これほどまでに東京都側に好き勝手にされている都立4大学の 教職員の権利を守るために戦えるのは,個人のレベルではなく, 組織された団体でしかない。組織率およそ50%を誇る都立大学・短期大学 の組合は必死に戦ってきた。 今,組合員の処分を「傾斜的配分研究費を払わない」ということで, 圧力をかけてきた東京都に,ふだん組合活動に熱心ではない教員の間にも 怒りの声が満ちてきている。 組合からもすでに 賃金闘争処分に関する管理本部の不当介入に断固として抗議するという 抗議文が発表されている。
2004年8月3日に傾斜的配分の実質満額支給が決定されたという噂が 伝わってきた。やれやれ,これでようやく昨年度並の細々とした 予算執行ができる状態に戻った。もっとも,すべての学部学科, 専攻で同じように潤ったわけではないので,あいかわらず困っている ところもある。未公開の抗議声明は,管理本部の所には届いたという 噂で,この話は一面では決着したように思えた。しかし,組合員の処分を再度 求めてくるという管理本部の姿勢には変化がない,という話も ある。そして,この話は実はここで終わらなかった (W-14へ)。
W-5 法人化した「首大」の土地や建物は,誰の所有物に なるのですか? 次へ
ポーカス博士これも第4回経営準備室会議の資料にでていた問題点なのだが,大学の財産とし て土地や建物がどのように位置づけられるかが案として述べられている。 都が公立大学法人に果たして何をくれるのか(出資するのか)という点に関する 一覧表がある。これは2004年7月9日の時点の案である,ということをまず 確認した上で(といっても,いつのまにか決定してしまうのだが),そこに載っている 「キャンパス別の土地・建物の考え方」という表を見てみよう。
この表から分かることは,地価の高い短大の敷地(晴海と昭島)と建物は貸与で あり,譲渡されない(出資されない)ようだ。この資料(「東京都から公立大学 法人首都大学東京に出資する財産等について(案)」)には,基本的考え方とい うのが載っている。その1には,「現大学が使用している土地,建物については 法人に必要な財産的基盤を保有させる観点から、原則として法人への出資財産と する。」と明記されている(出資財産等に関する基本的な考え 方)にもかかわらず,晴海と昭島だけを切り放す のは明らかにおかしい。定款(案)に盛り込んで,都議会に諮ることになる と記されているが,公立大学法人の財産的基盤になる土地と建物の一部を おいしいところだけは召し上げる(取っちゃう)という東京都のやり方が 見え見えだ。短大の教員も「首大」へ移行するのだから,当然,資産も移行して もらいたい。小笠原の研究施設を別途検討するというのも,いったい何を考えて いるのだろうか。ここを拠点にする研究は,「首大」では引き継がないなんて いうことがあってはならないはずだ。どうするつもりなのか,注目して行きたい。
「基本的な考え方」という部分の最後には,「現金出資を行う(入学金相当額)」 と書いてあるが,奇妙なことに「運営交付金」(東京都から支給されるはずの 大学運営にかかわる資金)がまったく話題になっていない。これが明らかになら ないと,大学運営をどの程度の規模でできるのかが分からずに,大学の執行部だ けでなく教員も非常に不安だ。早急にオープンな議論を始めてもらいたい。 まさか,初年度の4月から「入学金相当額の現金出資」だけしか出さずに大学運 営をしろ,とは言わないと思うが...
W-6 今の予定だと,来年の4月から「首大」と都立大が南大沢の キャンパスに混在することになるようですが,事務職員とかどうなるんですか? 次へ
ポーカス博士第4回経営準備室会議の資料には,「公立大学法人首都大学東京の事務系職員の あり方について」(案)という書類が入っていた。それには基本方針というのが 載っていて,次のように書いてある。
基本方針
◯ 法人化のメリットを活かして多様な勤務形態の人員を活用し,安定的かつ効
率的な大学運営を進める。
(1) 事務の継続性確保の観点から、当面は都からの派遣職員が主体となって大学
運営を進める。(都再雇用職員の派遣を含む)
(2) 都からの派遣職員では代替困難な業務及び定型的な業務の遂行にあたっては、
原則として有期雇用の法人職員を採用するなど多様な人材を活用していく。
・都からの派遣職員では代替困難な一部の業務(資格業務等)及び定型的な
業務については、コスト比較の上、人材派遣、委託の活用を含めて検討していく。
ということなのだが,「多様な人材を活用」と言っておきながら, 「業務については、コスト比較の上、人材派遣、委託の活用を含めて検討してい く」ということから,安くつく人材をいろいろな分野で採用するということらし い。職員の類型には、常勤職員(再任用職員を含む)[3年以内,10年まで延長可], 再雇用職員)[1年以内,更新4回まで]が都派遣職員,その他は法人職員として すべて任期制職員だ。幹部相当職 [3年以内,更新あり], 専門職 [1年〜3年,更新あり],一般職 [1年以内,更新2回まで], パート [2ヶ月以内,更新なし],そして人材派遣職員 [3年以内,更新なし] となっている。ようするにすべての職員が3年以内で替わっていく 可能性がある。大学運営に欠くことができない職員の存在を,いったい なんだと思っているのだろう。これまでも,国公立の大学では,職員の移動が 普通の役所と同じ感覚で行われてきて,職員の入れ替えがあるたびに, しばらくは事務仕事がストップしてしまうということが起きてきた。 これは,問答無用に職員を移動させてしまう所に,大きな問題が ある。専門職員は1〜3年として「更新あり」となっているが,本当に 大学の業務を知り尽くしているような職員が近年,別の東京都の施設に 移動させられたりしているが,これは人材の無駄遣いだ。
人を育てて職場で活用していくには時間がかかる。ようやく仕事に慣れてきたと ころで,別の部所に転勤させられたり,今回の「首大」事務系職員の場合のよう に,都の派遣職員以外は,任期のあるポストしか作らないようでは,責任をもっ た組織の運営が難しいと見た。建物はある,施設はある,機械もある, でもそれを活用できる職員がいない,何ていう事態にならなければいいのだ が...そうでなくとも,これまで聖域なき行政改革などと呼ばれて, 専門職員を含めて数が削減され,気がつくと教員があらゆる事務的な仕事を させられるようになってきている。これは,本当に実感として感じている。 「首大」職員の基本方針を読むと,事態は ますますひどくなるという気がしてならない。 「コスト削減」は経営的視点から見て重要だろうが,大学という教育施設を 運営するのに,最も重要なのは「人」だ。人減らしをして,サービスの向上 ができる,などと考えるのは妄想に過ぎない。1つ例を挙げよう。 都立大の就職担当の職員問題があったな。全学で担当職員がたった2人。 これでは,就職関係の学生に対するサービスは向上する訳がない。 各学部に最低2人とかの専門職員がいてもいいはずだ(都市教養学部なんて, あんなに巨大で異分野が合体しているのだから,8人位いてもいいだろう)。 「人減らし」ではなく「増員して学生サービスを充実させる」という 視点が,大学の事務職員の形態としても絶対に必要なのだが, どうもこの案からは,そのような根本的姿勢が読み取れない。 これでは,未来の「首大学生」は,事務職員にも面倒を見てもらえない, 悲しい存在になってしまうのではないかな?
W-7 ベネッセによる受験生の「首大」評価が 発表されたということですが,どんな評価なんですか? 次へ
ポーカス博士今回発表になったのは,「2005年度入試 ベネッセ難易ランキング」という ものと,それに連動して各大学の学部学科単位の志望者の状況を含むエクセル形 式のデータだが,データのありかを探したり,前年度との比較をしたりするのが 結構な手間でなかなかコメントできなかった。ようやくある程度の整理がついた ので,概略を説明しよう。今回のデータは,2004年度総合学力マーク模試・6月 (高校3年生・高校卒業生対象:受験者数約36.4万人)に基づいたものだ。 比較のために,前年度の同月に行われたデータも合わせて参照することで, より正確な情報が分かる。
まず,関連するファイルのありか:
I. 2005年度入試分
2005年度入試国公立大文系前期
http://fine.cab.infoweb.ne.jp/hs-online/doc/nyushi/2005-nyushi/nani-ranking/poster/koku-bun-zenki.html
2005年度入試国公立大理系前期
http://fine.cab.infoweb.ne.jp/hs-online/doc/nyushi/2005-nyushi/nani-ranking/poster/koku-ri-zenki.html
2005年度入試国公立大文系後期
http://fine.cab.infoweb.ne.jp/hs-online/doc/nyushi/2005-nyushi/nani-ranking/poster/koku-bun-kouki.html
2005年度入試国公立大理系後期
http://fine.cab.infoweb.ne.jp/hs-online/doc/nyushi/2005-nyushi/nani-ranking/poster/koku-ri-kouki.html
II. 2004年度入試分
2004年度入試国公立大文系前期
http://fine.cab.infoweb.ne.jp/hs-online/doc/nyushi/2004-nyushi/nani-ranking/poster/koku-bun-zenki.html
2004年度入試国公立大理系前期
http://fine.cab.infoweb.ne.jp/hs-online/doc/nyushi/2004-nyushi/nani-ranking/poster/koku-ri-zenki.html
2004年度入試国公立大文系後期
http://fine.cab.infoweb.ne.jp/hs-online/doc/nyushi/2004-nyushi/nani-ranking/poster/koku-bun-kouki.html
2004年度入試国公立大理系後期
http://fine.cab.infoweb.ne.jp/hs-online/doc/nyushi/2004-nyushi/nani-ranking/poster/koku-ri-kouki.html
III. 大学学部学科別志望動向の表(エクセル形式の自己解凍ファイルをダウンロード)
2005年首都圏33大学情報
http://fine.cab.infoweb.ne.jp/hs-online/doc/nyushi/2005-nyushi/shibou-doukou/moshi-3nen6m/daigaku-data/koku/33koku-syuto-excel.exe
2004年首都圏33大学情報
http://fine.cab.infoweb.ne.jp/hs-online/doc/nyushi/2004-nyushi/shibou-doukou/moshi-3nen6m/daigaku-data/koku/33koku-syuto-excel.exe
まず偏差値の動向から見てみよう。
2004年度都立4大学の偏差値と2005年度の「首大」偏差値を比較した表を
作ってみた。これは入試の模試として,前期試験に対しての受験動向であること
に注意して欲しい。ちなみに2004年度の総合学力マーク模試・6月
(高校3年生・高校卒業生対象)の受験者数は約37.0万人だった。
偏差値 | 2004年前期 大学(学部名) | 2005年前期 大学(学部名) |
69 | 都立大(人文) | |
68 | 都立大(法) | |
67 | ||
66 | ||
65 | ||
64 | ||
63 | ||
62 | 東京都立大(経済) | |
61 | 東京都立大(工) | |
60 | 東京都立大(理) | 首都大東京(都市教養) |
59 | 都立保健科学大(保健科) | |
58 | 首都大東京(都市環境) | |
57 | 都立科学技術大(工) | 首都大東京(システムデザイン,社会福祉) |
一方,後期試験の方では,少し様相が異なる。表1と同じ方式で並べた
ものが表2だ。
偏差値 | 2004年後期 大学(学部名) | 2005年後期 大学(学部名) |
68 | 首都大東京(都市教養) | |
67 | 東京都立大(人文) | |
66 | 東京都立大(法) | |
65 | 東京都立大(経済) | |
64 | ||
63 | ||
62 | 都立大(経済,理,工) | |
61 | ||
60 | 都立保健科学大(保健科) | |
59 | 首都大東京(都市環境) | |
58 | 都立科学技術大(工) | 首都大東京(システムデザイン,健康福祉) |
さて,果たしてどれくらいの受験者がいるかという調査だが,
都立大と比較した対前年度志望者数動向指数を見て欲しい。受験希望者数と
前年度比の形で示してみると,表3のようになる。
首大学部名 | コース名 | 募集定員前期 | 志望者数/前期 | 前年度比/前期 | 募集定員後期 | 志望者数/後期 | 前年度比/後期 |
都市教養 | 人文・社会 | 135名 | 1022名 | ▲69% | 30名 | 105名 | ▲53% |
法学 | 157名 | 944名 | ▲65% | 10名 | 91名 | ▲50% | |
経営 | 157名 | 462名 | ▲61% | 55名 | 42名 | ▲41% | |
理工/数理科学 | 26名 | 79名 | ▲51% | 6名 | 14名 | ▲67% | |
理工/物理 | 28名 | 79名 | ▲64% | 9名 | 17名 | ▲61% | |
理工/化学 | 28名 | 91名 | ▲53% | 9名 | 21名 | ▲66% | |
理工/生命科学 | 27名 | 100名 | ▲49% | 9名 | 16名 | ▲48% | |
理工/電気電子工学 | 21名 | 114名 | ▲25% | 8名 | 19名 | ▲26% | |
理工/機械工学 | 21名 | 179名 | ▲45% | 8名 | 21名 | ▲27% | |
都市環境 | 地理環境 | 16名 | 84名 | ▲76% | 5名 | 6名 | ▲23% |
都市基盤環境 | 28名 | 58名 | ▲85% | 8名 | 3名 | ▲20% | |
建築都市 | 34名 | 324名 | ▲66% | 10名 | 44名 | ▲49% | |
材料化学 | 34名 | 42名 | ▲26% | 10名 | 2名 | ▲8% | |
システムデザイン | 経営システム | 30名 | 53名 | -- | 10名 | 19名 | -- |
ヒューマン・メカトロ | 35名 | 28名 | ▲20% | 14名 | 5名 | ▲10% | |
情報通信システム | 30名 | 135名 | 245% | 10名 | 22名 | 110% | |
航空宇宙システム | 30名 | 331名 | ▲68% | 10名 | 89名 | ▲61% | |
健康福祉 | 看護 | 46名 | 206名 | ▲73% | 10名 | 36名 | 100% |
理学療法 | 25名 | 338名 | ▲86% | 5名 | 76名 | ▲89% | |
作業療法 | 25名 | 126名 | 106% | 5名 | 19名 | ▲83% | |
放射線 | 25名 | 168名 | ▲67% | 5名 | 36名 | ▲92% |
この数字は,受験生が「首大」について知らないから,受験予定に組み込まなかっ たということではない。昨年の8・1事件以降,新聞や雑誌でも都立4大学に関す る記事は十分人目につくだけ報道されている。「学問の自由」,「大学の自治」 という観点がまるで欠如した大学像は,高校の先生達にも広く知れ渡っている はずだ。実際に,ネットでは次のようなコメントを目にした。
「過去に単年度でこれほど偏差 値が絶対的かつ相対的に下落した大学は存在せず、下落幅は日本記録を更新す る見込みだ。」
そう,これだけの大学破壊をしたことに未だに東京都は気がついていない らしい。教員にとって魅力のない大学は,学生にとっても魅力のない 大学なのだ。経営的視点を導入するのは結構なことだが, 協議をしない強引な手法使うことによって, 失われるものがあまりにも多いのに気づいていない。 理事長予定者や学長予定者が,積極的に都立4大学の教員や 学生と話し合って,教育の理念を明らかにしてくれば,このような事態には ならなかったはずだ。今後,「首大」の宣伝広告活動が始まるだろうが, それで受験生を本当に引きつけられるかどうか,はなはだ疑問だ。 悪い評判は,あっと言う間に伝わるからな。約37万人が受験した模試の 結果というのは,動かしがたい影響力を持つ。悪い評判は,悪い評判を 生むという悪循環に陥ると,大学を含めた学校の評判というのは, 回復するのに十年以上の歳月を必要とするのが一般的だ。6年という法人化後の 第一期をのりきった時,「首大」の評価がどうなっているか... 極めて難しい状況になっている可能性が高いだろう。
W-8 2004年8月3日に発表された 4大学教員声明呼びかけ人会の声明は,何を目指しているのですか? 次へ
ポーカス博士4大学教員声明(2004年1月21日)注1)を出した各大学(学部)の世話人が 「呼びかけ人会」と称して今日まで活動を続けているのだが, 4月13日の声明, 6月4日緊急4大学教員集会の開催に続いて今回の声明を出した。 現在では就任承諾書を提出した教員と提出しなかった 教員の混成部隊となってしまっている。それでも,4大学の 教員が集まっているという意義は大きい。
さて今回の声明だが, 「新大学を巡る危機的状況に対し,全ての関係責任者に緊急対応を求める」 というタイトルで,文字通り3つの緊急対応を求めているのが特徴だ。
第一は、最高責任者である理事長予定者および学長予定者が、上記に述べた基本 問題の重大性を認識して、早急に解決策を提案し、現大学との開かれた協議を開 始すること。
第二は、大学管理本部長は、現大学の学生に対する学習権を保障するために、A 類学生とB類学生とに対する教員・職員の配置と確保を行うこと。そのために、 現大学の執行部との協議も含めた準備作業を速やかに開始すること。
第三は、新大学学部長予定者は、新大学準備については、恣意的立場を捨てて、 公平で透明な運営を図る立場に立つこと。この点については、理事長・学長予定 者の責任問題に直結することを指摘する。
第1に,これまで以上に緊急に理事長予定者と学長予定者に開かれた協議 を要求している。思い出して欲しい。 D-6で話題になったように, 高橋理事長予定者は2004年2月17日に都立大学に来た時,今後毎月でも 都立大学へやってきて話をするとかなんとか言っていたが,その後 一度たりとも大学へ来た話は聞かない! 西澤学長予定者も,都立大学へ来たことは一度もないはずだ。 「これからは,教員と積極的に話をしていく」とかNHKのインタビューで 答えていたという話を聞いたが,実際には一度も来ていない。 「新しい大学を作る」と言いながら,実際には都立の4大学の 教員を大部分採用するのだから,その教員達と大学の方向性を 議論する必要があるのではないか? 2人とも,話をすると言っておきながら, 実際にはやってこないのは変だ。いや,間違っている。
「4大学の現場では、新大学への多量の移行準備作業が、現 大学との継続性を無視して行われていること、新大学の全体を見通した展望のな いまま進められていること、などに失望感が高まっている」 というのは事実だ。このような事態を打破するには, 新大学の仕事を全員で一度ストップするしかないと思う。違うかな? 嫌々でも「首大」から来た仕事をもくもくとこなすということは, 「首大」の理念に賛同することになる。「首大」のこれまでの理不尽な 大学案に忠誠を誓っているように見える。「その通りだ,それでいい」 という教員には文句を言えないが,本当は「首大構想」に反対なんだ と言いつつも,「首大」の仕事をセッセとこなすのは矛盾だろう。
「大学管理本部長は、現大学の学生に対する学習権を保障するために、A 類学生とB類学生とに対する教員・職員の配置と確保を行うこと」 という第2のポイントは正に深刻な状況になりつつある。流出した教員の 後を埋めないと,今,都立大学にいる学生の学習権を保障することが できない。しかし,この声明の中でも述べられているように大学管理本部は, 今,「首大」のことしか考えていないように思える。これも大きな間違いだ! たとえ,来年の4月に「首大」が発足しても,その時点では, 首大の「学生数は、大学院学生も含めた全体の2割に過ぎない」ことを 忘れている! 残りの8割りの学生の学習権を保障するためにも, 大学管理本部は働かねばならないはずだ!
最後に,「新大学学部長予定者は、新大学準備については、恣意的立場を捨てて、 公平で透明な運営を図る立場に立つこと」を今回の声明は求めているが, まあこれは無理だろう。「学部長予定者」達は,明らかに民主的に選ばれた人達 ではなく,上の人達と仲のよかった教員でしかない。だから,これからも上の 政治家,官僚と仲よくすることしか考えていないだろう。 「公平で透明な運営を図る」べき立場の人達が,上からの指名で勝手に決められた のだから,そして組織的にも下からの声を尊重しろとは学則案にもどこにも書いて ないのだから,彼らにいくら公平にやれと言っても無駄だろう。 これは,組織の問題だ。不公平な決断をいくらでも上から実行できるような形の 組織になっていて,その上の人をさらに上の人が選ぶという形になっている のだから,いくらあがいても無駄なのだ。学則や定款レベルできちっと 下からの声を反映できる条項を入れなかったら,どうしようもない問題 だと,わしは思う。
注1)
最終的に2月3日締め切りで,
都立4大学797人中451名(57%),都立大学589人中381名(65%)
の賛同を得た声明。この時の声明は,
「都立新大学設立のための開かれた協議体制の速やかな確立を求める」
というもの。
W-9 2004年8月9日に発表された 「開かれた大学改革を求める会」有志による緊急意見表明は,何を目指しているのですか? 次へ
ポーカス博士「開かれた大学改革を求める会」は,西川直子氏(都立大人文教員)が代表を勤 める団体で,署名活動や都議会への働きかけを中心的にやってきた学部の枠や, 教員,学生,院生の枠を越えた団体だ。今回の声明の一番の主張は,その タイトルから分かるように「新大学発足は一年延期を」というのが中心 で, 2004年8月3日に発表された「4大学教員声明呼びかけ人会」の声明より 一歩踏み込んだものとなっている。と同時に,声明の母体が「開かれた大学改革 を求める会」の有志であり,賛同者を広く募るというオープンな形式の意見表明 になっている。だから,これを読んで自分も共感できると感じたら, seimei_sando@yahoo.co.jp へ賛同の意思を伝えるメールを送ると声明の最後に名前を載せてもらえる。 注1
本文は 「新大学発足は1年延期を --- 東京都の進める新大学構想と今後の方向についての緊急 意見表明---」で確認してもらうとして,その緊急提言項目を見ておこう。
1)新大学と新大学院は2006年度に同時発足させるべきである。
以上のような数々の難点を放置したまま2005年4月の新大学発足を拙速に強 行することは、現在在籍する学生だけでなく、受験生、新大学入学生に対して も無責任、不誠実であり、さらには、将来的に取り返しのつかない悔いを残す ことになる。大学の社会的責任を考えるなら、次の措置こそ現在選びうる途の なかでもっとも妥当なものである。
東京都大学管理本部は新大学の2005年度発足をいま速やかに断念する。大学 院入試等可能なかぎりで現行大学での入試を行ない、現行大学継続を一年延長 させる。そのうえで綿密な計画を練り直し、新大学院と一体のものとして2006 年4月の新大学開学を目指す。
2)大学管理本部は2003年8月1日以降の異常事態を清算するべきである。
その際、当然ながら、現在のような混乱と大学破壊をもたらした2003年8月1 日以降の新大学案及びそれを推進する乱暴な手法を大学管理本部は撤回する。
3)いまこそ真に開かれた大学改革を。
新大学発足を一年延ばしても残されている時間は決して多くはない。それを 有効に使いうるよう、都立4大学構成員が積極的に参加できる「真に開かれた 協議体制」を速やかに構築するべきである。そのような体制を実現してはじめ て、大学のありうべき姿を真摯に考えるからこそ新大学への就任を承諾しなかっ た教員をも含めて、都立4大学の教員が新大学構想に全力を傾注してゆく条件 が整うと考える。
提言の中心は,「首大」の発足を一年遅らせるべきだという部分だが, これはあと残された時間が半年という時点でも,学則,定款,カリキュラム, 入試体制など決まっていないことばかりなのに,強引に2005年4月に 開学したら「首大」は大混乱に陥ることが目に見えているからだ。 その中でも,入試問題が急浮上しているが,入試問題作成に当たっては, 通常,細心の注意を払って綿密に協議して繰り返しチェックする体制で臨むのだ が,部分的にしか体制が確立していないところから,このまま進めたら大きな 失態をさらけ出すことになる可能性があるのだ。「とにかく2005年4月に 開学すれば,知事の公約が守れる」,なんていうことを言っていたら, 「首大」は取り返しのつかない悪印象を世界にばらまくことになる。 ただでさえ, W-7で見たように, 受験生の評価が下がり,実質偏差値の急降下が伝えられているので, 例えば昨年度の都立大の入学試験問題のように,もはや高いレベルの良問を 受験生に課すことはできないだろう(軒並み低得点になってしまっては, 足切りどころのさわぎではない)。今後,ますます受験生のレベルダウン を招かないためにも,ここで体制を建て直して,きちんとした教育研究を 行う大学だという姿勢を一年かけて世間に伝えていく必要があるだろう。
一年かけて体制を建て直すための前提条件としては,これまでの 管理本部の体制を公式に改めてもらう必要がある。 数々の一方的な通告や脅し,恫喝文書で主張してきた考え方や手法を 大学管理本部は明確に撤回し,大学の教員と学生,院生と話し合う場を設ける べきだ。理事長予定者も,「毎月,大学に来て話し合おう」と 一度は言ったのだから,実行して欲しい。学長予定者も,「大学の教員という 同じ立場の人達なのだから,話し合えば分かってくれるはずだ」と思うのなら, さっさと「現場の声を聞きに」都立4大学に来たらよろしい! もはや、口先だけの公約ではなく,実行に移してもらわなかったら, この先,にっちもさっちもいかなくなる。 実務作業という名の元に,さまざまな具体的な仕事を「首大」就任予定者に 押しつけてきているが,目前の仕事だけを教員にやらせて,やっつけ仕事で 期日を合わせても駄目なのだ。 教育現場には,大学管理本部が知らないこと,知らなければいけないこと, 早期に手を打たねばならないことが山積している。 「首大」就任予定者にも堪忍袋が あることを忘れてはならない。 このまま放置して,大学管理本部が突っ走れば, <堪忍袋の緒が切れる>のはもうすぐだ。9月認可が見えたと言って, 祝杯をあげている場合ではないことを認識してもらわねばなるまい。
この緊急意見表明に対して, 「声明の趣旨には賛成だが、仮に新大学発足が延期となった場合、入試はどうなるのか?」 あるいは、「特に、修士課程修了予定の院生にとっては、来春の博 士課程進学は切実な問題なので、入試中止は困る」といった指摘が出て きたが,西川代表からのメール の中で示されたように,(この件に関しては,すでに)「事前に文科省に照会してありまして、 もし9月、11月に設置認可がおりなかった場合には、東京都にその意思がありさえ すれば現行大学での入試を行なうことができる、との回答を得ています」, とのことだ。ようするに,東京都側がこのままの状態で「首大」設立を強行する と大変な事態になるということに気づいて, 「首大」設立を一年延期し,都立大としての入試を行うと決定すれば,それは 可能であるというのが文部科学省の意見だったわけだ。
注1
メールを送るに当たっての記載事項。(匿名での賛同も可)
(i) 賛同人氏名,
(ii) 所属 --- 「所属大学・学部ないし研究科」及び
「教員」「職員」「助手」「学生」「院生」
「オーバードクター」(退学後3年以内で論文指導を受けている者に限る)
の区別をご明記。
(iii) 名前の読み方(ふりがな)。
(iv) 本人の連絡先。
(v) 匿名希望の場合はその旨明記。
その場合でも、上記事項はご記入する。
(賛同人一覧では《匿名》として所属と身分のみ表示)
W-10 W-3で話題に なった「定款たたき台」に対して,結局どのような意見が出たのですか? 次へ
ポーカス博士学内締め切りが7月23日だったが,それをとりまとめて7月27日頃に管理本部へ 提出されたと聞いている。その中には, 都立大学総長の意見書の他にも,3件の意見書が添えられた。
こちらで,目下,「定款たたき台」に関する意見として知っているものを
以下にまとめてみた。
(1) 都立大学総長の意見
(2) 人文学部教員から出た意見
(3)
法学部高村 学人氏の意見(外部リンク)
(4) 理学研究科からの
意見
(5)
<「大学に新しい風を」編集委員会 定款検討グループ>による意見(Wordファイル)(外部リンク)
(6)
「大学に新しい風を」第3号に掲載された大串 隆吉氏による意見(Wordファイル)(上記と同じ外部リンク)
ここで「定款たたき台」に関するわしの議論(W-3)を蒸し返す つもりはない。しかし,この間,いろいろな人と議論してきた結果,自分なりに 到達した考えもいくつかある。その中で重要なトピックを3つだけ紹介しよ う。
「都立大学条例の廃止と都立大学の廃止は別問題である」
都立大学を例にして話をするが,都立大学の設置条例を廃止する条例を出して,
都立大学の設置条例をなくし,あらたに公立大学法人として設置し直すという手
続きを大学管理本部側は考えているようだが,都立大学設置条例を廃止しても,
都立大学の廃止にはならないという考え方がある。もし,逆に設置条例を
廃止したら大学廃止になると仮定したらどうなるだろうか?
そうすると,「平成22年度まで都立4大学は存続する」という管理本部の
主張自体が間違いということになってしまう。
いま,東京都立大学で学んでいる学生・院生は入学時に卒業するまできちんとし
た学習権を保障されているはずだ。言い換えれば,東京都は,これらの学生達
が全員卒業するまで,教育と研究に責任を持っている。それは,入学時に約
束された,東京都立大学の学則に基づいた教育を受け,研究ができるという保障
なはずだ。
この公的な約束を一方的に反故にするのは,あたかも
「設置条例を消去したら,都立4大学も自動的に消去されます」というような
コンピュータのファイル操作のような見方だ。「都立大の学生として平成22年度まで
は学習権を保障する」と大学管理本部が確約するなら,
設置目的が大きく異なる「首都大学東京」の学則のもとで,
都立大の学生を教育するのは間違っているだ
ろう。また,1つの「公立大学法人」の名の元に,
一方的に都立大学の学則を大幅に変更してしまったら,都立大学の学生・院生
の学習権が守れないことは火を見るよりも明らかだ。組織上の大幅な変更を
したら,本来の権利が損なわれることは目に見えている。
「研究,教育の主体は大学であって,法人ではない」
「定款たたき台」では,第一条で,法人が研究教育の主体であると書かれている
のは,明らかにおかしい。公立大学法人は,大学法人であり,教育機関を
設置することを第一の使命とするはずだ。その観点から言うと,最後に
付則として現都立4大学についての設置条例を廃止すると規定するのは
本末転倒である。東京都の設置する公立大学法人は,「首大」と並んで
都立の4大学の設置者であることをきちんと最初に謳わなければならない。
「教学部門の独立を保障するとともに,教員の意見を反映できる仕組みを設けるべき」
この点は,「定款たたき台」に対してのもう1
つの意見に明確に書かれている。第11条5(学長選考会議)にあるように,
理事長自身が学長を任命するだけでなく,選考に加わるようでは,経営部門から
教学部門が独立できなくなる。その結果,法人化した大学は,圧倒的に経営部門
の力が強く,教育や研究が経営的視点に支配されてしまう。
教育研究が独立して「学問の自由」を保障するためには,これまでの大学に
おける教授会や評議会といった民主的な意見を反映できる仕組みがなければ
ならない。権限をすべて理事長に集中することは,理事長が一人で何でも
決められるという危険な権力集中構造を作り出してしまい,ひとたび理事長が
狂ったら(失礼),大学はおろか法人全体が崩壊することになり,何も
それを妨げることができなくなってしまう。ここには,権限の分割という民主主
義の大原則が必要がある。経営部門と教学部門が独立していても,
一方的に経営部門の力が強いようでは,健全な大学組織の運営ができない。
W-11 来年度に「首大」が設置された時, たとえば都立大生と「首大生」は同じように都立大と「首大」 の授業を受講できるのですか? 次へ
ポーカス博士その件に関しては,もう数ヵ月前からもめていてまだ決着がついていない。 もちろん,就任承諾書を提出した教員と提出しなかった教員の間にも, 見解の相違がある。都立大と首大を例にとれば, 可能性として単純に次の4つになる。
(1) 都立大の学生も首大の学生もどちらの大学の授業も好きに
受講できる。
(2) 都立大の学生は都立大の科目だけしか受講できず,
首大の学生は首大の科目だけしか受講できない。
(3) 都立大の学生は,都立大の授業の他に首大の授業も受講できるが,
首大の学生は,首大の授業しか受けられない。
(4) 首大の学生は,首大の授業の他に都立大の授業も受講できるが,
都立大の学生は,都立大の授業しか受けられない。
原則論から言ったら,当然(2)になるだろうが,そうすると,
その時期によって片方の大学の授業数が十分に確保できるかどうかが不安になる。
就任承諾書を提出した教員が,すべて公式に首大教員として位置づけられると,
都立大の授業を就任承諾書を提出しなかった都立大教員だけでやることは不可能
だから,首大教員は当然のことながら都立大の授業をやらねばならない。
例えば,初年度は明らかに都立大の学生が8割とかいるはずなので,
都立大の科目が十分になければならない。しかし,たかだか2割でも首大の
授業科目はもちろん開講しなければならない。当然,
教員には開講科目の負担が増える。
もちろん,現実的には,(1) の考え方にのっとった
相互乗り入れする科目を指定しておくような方策がとられる。実際に
どれくらいの数の科目が相互乗り入れするのかが目下検討されている。
問題は,「相互乗り入れしない科目」の扱いだ。
(2) や (3) を主張する人達も少なからず存在する。
都立大と首大である種の特別な単位互換制度を作ったり,
科目等履修生の制度を活用することが解決策のように思われるが,
首大側の発想では,「単位バンク」の活用で問題解決の道筋をつけようとしてい
る者もいる。
しかし,都立大の科目を単位バンクに登録することに,
協力しない教員も当然出てくるだろう。
大学管理本部側では,都立4大学の廃止と1つの新大学の設置とか
言いふらしているが,実際には,都立の5大学が1つの法人の元に
管理されるようになるわけで,「都立大学と首大に継続性がない」
と大学管理本部が主張すると,
カリキュラムの相互乗り入れは,2つの違った大学間の
交渉事となり,それぞれの組織での別々の承認が必要になるはずだ。
問題をややこしくするのは,2つの大学で,たくさんの共通の教員を抱える
点だ。一人の教員に2重人格というか「2重の顔」を強いるところだ。
「この問題は,都立大的には XX だが,首大的には YY だ」と
自己分裂を強いることになる。
首大非就任者は,その点で1つの顔しか持たない(純粋に
都立大だけの教員だ)から立場が明確だが,
教員が2重の顔を持っている(公式には首大教員であると
法人の中で位置づけられていても,都立大の学生を大切に
したいと思っている)場合には,
2つの組織の原理の板挟みになる恐れがある。
首大が都立大の科目受講を首大生に禁止したような場合に,
都立大の科目を受講したい首大の学生が現れたら
どうしたらいいのだろうか。首大からは禁止されていても,
熱心な学生だったら受け入れてもいいという都立大教員の
顔が現実にはあるかもしれない(もちろん,中には胸をはって,
自分は都立大教員ではなく首大教員だと主張する者は,
迷わないだろうが)。
そして,このような2つの大学が同じキャンパスで違う学生を
抱えるという変則的な年が2年,3年と続く内に,今度は
都立大の学生がどんどん減っていき,都立大の学生は首大の
授業を取らなければ卒業できないような状況になるだろう。
その時点で,都立大が残された都立大の学生のために,
どれだけ誠実に都立大の授業を提供できるか,というのは
大きな問題となるだろう。もちろん,このような状況は,
無事に(?)設置認可が降りて,無事に(?)入試をやって,
無事に(?)定員数の学生が入学したという前提の話だから,
まだまだ分からない未来の話だ。しかし,通常だったら,
とっくに来年のカリキュラムや入試関係の仕事は,
もっと先に進んでいる時期なのだから,
未来の「首大」は極めて危うい状況にある。
大学管理本部も,人事異動があって,人手不足と事務量のあまりの多さにより,
開学準備作業は致命的に遅れているというもっぱらの噂だ(最近異動になった者など不眠不休の
生活が続いているとか)。それでも管理本部上層部は,都立4大学の助けを借り
てはならん,と命じているらしい。仕事はどんどんたまっていき,
チェックしなければならない書類も確認無しでどんどん出してしまうという危う
い状況が起きている。
もしこのままの調子で準備が遅れて,文部科学省とか政治家のレベルでの
判断から≪とにかく認可≫されてしまったら,
来年の4月からの「首大」は,
未定事項に溢れたボロボロの状態になってしまう恐れがある。
そんなことを考えると,
「開かれた大学改革を求める会」が呼びかけているように,
少なくとももう1年かけて,
すべてのカリキュラムや組織の編成を徹底的に組み直す
必要があると思うのだが...
この2003年8月1日以来の騒動で,教員も都立4大学の学生・院生も本当に
翻弄されてきたが,2005年4月に首大がスタートしてしまったら,
犠牲者はさらに「首大学生」にまで及ぶことを,文部科学省のお役人,
東京都のお役人,東京都の政治家,東京都知事ならびにその周辺の人達
は認識して欲しいものだ。
就任承諾書を出した都立4大学の教員達は,2005年4月以降にとんでもない
混乱が起らないようにと汗を流していると聞いている。それもみな,
これ以上犠牲者を出さないようにするためらしい。「まだ見ぬ<首大学生>
を犠牲者にしたくない」という声を聞いた。
わしはな,確かに「まだ見ぬ<首大学生>」を犠牲者にしないように,
という配慮は十分わかるが,だからといって原理的・根本的なところで間違っている
首大構想に手を貸して,
同僚の教員が積極的に首大の仕事をするのを見ていると,いたたまれない気持になる。
W-12 「首大」は2004年9月に設置審を通って 認可されるという噂は本当ですか? 次へ
ポーカス博士「首大」9月認可説は,7月の早期認可が行われなかった時から噂として 広まっている。所詮は噂にすぎないのだが,この噂が信憑性を持って 語られるところから,首大就任予定者が諦めの境地に追い込まれて, どうせこれ以上抵抗しても文部科学省では認可してしまいそうだから, 都立大や(未来の)首大の学生のために少しでもよい教育研究環境を 作るように努力すべきだという考えが生まれてくる。 そうすると,「開かれた大学改革を求める会」が求めている「新大学発足一年延 期」なんてもう無意味だという考えが頭をもたげてくる。
7月の早期認可が降りなかった時には,書面による修正事項と口頭による修正事 項が伝達されたらしいが,決定的に書類の不備があったとか,認可できないよう な不具合が見つかったということではなかった。そして,緊急情報のところでも 触れたように:
◎ 「東京私大教連」第221号(2004年7月30日)に,都立大学問題で7団体が文 科省と都知事らに要請した時(7/21)の報告が載る。
(抜粋)...これに対し文科省は、「継続審議になった理由は、承認承諾書の教員 の数が申請当初と一致しなかったためである」 「次の審査は9月になるが更に 承諾書が少なくなれば審査も継続になる」との回答がありました。都立大学の教 職員を蚊帳の外にしたあまりにも異常な石原都政に、文科省として指導を求める と、文科省としては「その立場にはない」と消極的な姿勢に終始しました。
と文部科学省が答えているところから,9月認可を阻止できるものは, 多くの教員が就任承諾書を撤回するという事態が起きる以外にはない, と解釈できる。もう,「9月には「首大」が認可されるのは決まりだ」 と考えるのは時期尚早で,9月認可をくい止めるには「就任承諾書撤回」とい う手段が残っているというのが本当のところだ。 文部科学省が東京都に対して何らかの指導をすることは,現状としてまずあり得 ない。それは,2004年2月27日(金)衆議院文部科学委員会での河村文部科学大臣の答弁から しても明らかなことだった。東京都の大学は,国から運営交付金をもらっていな いから,金銭的な関係が国と東京都の間にない,というのも大きなポイントなの だろう。
ここで振り返ってみたい。
「総長声明」,「4大学教員声明」,「評議会声明」
など都立の大学から出された声明に対して,東京都大学管理本部は一切まともに
誠意を尽くして返事をしたということがあっただろうか? 答えは,NO だ。
都立の大学から「首大」への継続性を一貫して主張してきたこれらの声明は,
大学管理本部にことごとく無視された。「首大」は「新大学」として
断絶していると管理本部は一貫して主張してきた。そして就任承諾書が
配られ,最終的に485人が提出した。これは,就任承諾書を提出した
教員が管理本部の意見に同調できたことを外部に示す結果となっている。
「いや,学生のことを考えたから出したのだ」と言っても,
結果的には管理本部の主張が通ったと
見なされているわけで,今後もこの調子ですべて押しきられる可能性を
示してしまった。これに立ち向かうには,就任承諾書撤回しかない
と思うのだが...他のところでもすでに述べたように,今回の東京都による大学破壊は,
残念ながら全国の大学に影響を与えてしまった。そして,最終結果として,
東京都の強引な手法が有効だったという烙印が押されたら,
その影響はさらに大きなものとなって,日本の高等教育破壊の歴史に
刻み込まれてしまうだろう。
そう,だから「首大」は2004年9月に設置審を通って
認可されるという噂は本当なのだが,最後の最後で阻止される可能性も
残っているということだ。もう決着がついている,とか,
負け戦(いくさ)は,してもしようがない,と思う前に,
最後に残った自分の手札(てふだ)をよく眺めてみてはどうだろうか。
8月24日に設置審の2度目のヒヤリングが行われたのだが,残念ながらその時の
情報は,ほとんど入ってきていない。管理本部側に何か具体的な注文がついたか
どうかが知りたいところだが,関係者も口を閉ざしているようだ。
これまでの経緯から考えると,大学との意思疎通をもっとよくしなさい,
とか,単位バンク制度は問題があるので再考したらどうですか,とかは
十分に考えられる要請だが,具体的にどうしろとか注文をつけるのは
難しいのではないだろうか。
さらに大学院についても,いわゆる
首大の暫定大学院(これは,現都立4大学の大学院とほぼ同じ「首大大学院」)
から首大の新大学院へ突然変わってしまうのだから,
詳しくその変わり方を説明しなさいと求めること
もあるはずだ。
ここまでの「首大構想」を眺めてみると,当初は
単に「文学系」潰しのように見えたが,根本的には「文科系学部学科の
基礎研究を全てつぶす」(人文,経済,法学)ことがより明確になってきた。
そして,理系の一部の基礎研究も追い出したい
というのが,構想を立てた人達の脳裏にはあったのだろう(逆に言えば,
応用系だけを残して優遇する,ということ)。
そして「首大」を認可することは,
最終的にこのような方向での大学破壊を許すことになる。
「実学重視」という言葉を掲げて,
これまでの「学問の自由を認めない」から,大学院構想の大幅な変換も,
見掛け上のつながりを示せたとしても,そこには大きなギャップがある。
本来の「学究の徒」を育てるだけのスタッフと環境を整えるような人文系,
あるいは理系基礎系の大学院の実現は極めて難しい。それは,人員削減と
カリキュラムの変更が直接の原因となっているが,将来的には,予算面でも
厳しい環境に置かれるだろう。唯一重視されそうなのは,
(実学に根ざした)高度職業人の養成のための
大学院コースにすぎない。だから,現都立4大学の大学院から
暫定大学院
を経て「首大新大学院」に変わる所には,
大きな溝があるのだ。埋められないほどの大きな溝,
それは,人員削減,カリキュラムの変更,研究費配分の変更という
3つの要素が保障してくれるギャップであって,設置審でなくても,
誰でも思うことは同じだ。
T-5で見たように,
首大新大学院の設計には,純粋に教員を増員して研究教育体制を
改善しようという動きはない。人文・社会系は,オープンユニバーシティや
基礎教育センターの教員も入れた設計になっている点で,
「首大」の学部よりも研究重視の姿勢が一応は見て取れるが,
西澤学長予定者の大学院の理念を忘れるこ
とはできない。「基礎研究だけに閉じこまらず、常に現場を意識し、よく問題をつ
かまえて社会のニーズに対応した研究を行う。実用・実践から学術の体系を創造
する。」とそこで西澤氏は述べているが,「基礎研究だけに閉じこまらず」
というのは「基礎研究はなるべくやらずに」という意味だろう。
「みんなが同じ難しい本ばかり読むのでは、新しい学問はでてこない。」(朝日新聞
2004年6月16日)と発言しているが
(D-9参照),
難しい本を読むような学問に価値を置いていないということだ。ここからは,
文系と理系の基礎研究が冷遇されて,理系の応用系だけを重視する姿勢
がありありと見てとれ,これが東京都のためになる大学構想の意味なのだ。
例をあげて欲しいというなら,いくらでもあげよう。
経済学はいらないから,経営学をやれ,法哲学はいらないから,
司法試験に合格するような法律を教えろ,実験心理学など
いらないから臨床心理学をやれ,などなど。分かるかな?
「そのような実学主義のどこが悪いの?」と訊く人がいるが,それは大きな勘
違いだ。まず,第一に実学主義の大学は東京都に現存する多くの私立大学が目指している
方向であり,いまさら実学主義の大学を東京都に作る意味などない,とわしは思う。
第二に,
都立大学は,研究者養成という役割を担う大学としての伝統を
築き上げてきたが,それを壊してまでも,実学主義の大学を作る意味はない
という点。最後に,第三として,一年半の期間で,現場の大学教員や学生の
意見を訊かずに,知事の意向ばかりを気にして大学管理本部が一方的に作り上げる大学は,
実学主義といっても,その内容は信用できない。つまり,実学主義そのもの
が悪いというよりも,
・「基礎研究も同じように重視しましょう」
・「大学の教育研究の内容を理解してから,大学側と協議して改革案を作りましょう」
・「これまでの都立大50年の教育研究の歴史を無駄にしない改革案をつくりましょ
う」
と繰り返し言っているのだ。実学一本槍では,大学教育にならないのだ。
「高等教育とは何か?」というタイトルで, 自分の意見を堂々と述べて,聴衆を説得できる人が今の日本にどれだけいる だろう,と,わしは時々考えることがある。 それは,なにも大学の教員や研究者に限ったことではない。 国民一人一人が,もっと高等教育を大事に考えていかねば,この国の将来は 危ういだろう。自分は大学とは関係ない,とか,自分は大学では勉強しなかった, と公言して,卒業さえすればいいのが大学だと考えている人が大多数だと したら,本当に日本の大学は滅びるだろう。学問の自由はなくなり, 技術大国とか経済大国という言葉だけに踊らされている人々が, 日本を好きなように動かすようになるだろう。おっと,いけない, 話がそれてきてしまった。実は,高等教育を軽視してきたツケが,すでに社会全体 にゆっくりと効く毒薬のようにまわってきているのだな。 「こんなはずじゃあなかった」と思った時にはもう遅いのだ。
W-13 定款(たたき台)に対する意見に管理本部が回答 してきたという話を聞きましたが,どんな内容だったのですか? 次へ
ポーカス博士2004年9月6日付の書類が,人文学部では9月16日の教授会の日に配られた。 そこには,「定款(たたき台)に関する意見への回答」の他に, これまで教員の意見を求めていた2つの事項,即ち, 「事務組織等に関する意見への回答」と「年俸制に関する意見への回答」 が含まれていた。これら3種類の回答は,それぞれオリジナルの意見書も コピーされてついていたので,いずれ紹介したい。
まず,「◎都立大学」で始まっているところから,ひょっとして科学技術大学や
保健科学大学からの意見もでているのかもしれない,と思った。
都立大学からは,総長,人文学部X氏,理学研究科,法学部高村氏の4つが
意見書として提出されていたが,総括して,回答はあまりにも拒絶的であり,
わずかに歩みよりが見えたのは,第1条の書き直しと第18条の漢字の誤り
だけだった。後は,「〜する」,「〜しない」,「〜したものである」,
「〜とする」の繰り返しで,ようするに「定款(たたき台)で書いてあることを,
押し通しますよ」と言っているだけだ。これでは,回答というより,
同じことを繰り返しただけだ。意見を求めるのなんか,かっこだけ,
ポーズに過ぎなかったことが判明した。
まあ,時間をかけてゆっくりと比べてみて欲しい。
総長意見と管理本部の回答
理学研究科の意見と管理本部の回答
人文X氏の意見と管理本部の回答
法学部高村氏の意見と管理本部の回答
問題のある学生のレポートを読んでいるようなもので,だんだんと繰り返しが 目立つようになって,人文のX氏に対しての回答は本文10行, 最後の高村氏の意見に対する回答に至っては,原文でたった 5行だった。これで,2004年12月には都議会で審議して通すつもりなのだろうが, その時には「教員からも十分に意見を聞きました」と管理本部は言うに違い ない。 覚えておいて欲しい。「意見を訊く」というのは,「耳で声を物理的に聞く」 のではない。話し相手が言っていることを聞いて,理解して,そして共に より良い案を作ろうと双方で努力することを言うのだ。 よく覚えておいて欲しい。管理本部は,ほとんどまともな回答をしていないことを。 このような回答を寄せることの意味とは,意見を訊かなかったも同然であること を。
W-14 傾斜的研究費配分が実は不採択になったグループ もあったということですが,実情はどうだったのですか? 次へ
ポーカス博士実は,W-4で傾斜的研究費 配分の話が終息したかに思えたのだが,ふたを開けてみると大違いだった (この問題の核心は,N-13と N-14を参照)。
まず応募件数だが,都立大では合計101権の応募があった。簡単にまとめてみる と,下の表のようになる。全体で85件が採択され,16件が不採択になってい る。
学部 | (予算の付いた件数/申請件数) |
人文 | 4/4 |
法 | 3/3 |
経済 | 12/13 |
理 | 24/34 |
工 | 35/40 |
都市研 | 3/4 |
(合計) | 85/101 |
審査の方法だが,今のところ判明しているのは,3段階の審査があったとの
ことだ。
第一段階:各学部・研究科内部の審査
第二段階:外部委員会(H氏,K氏の2名)
(研究内容を審査し、A,B,C,Dで評価する。C,Dの場合はその理由を書く)
第三段階:経営準備室(理事長予定者を初めとするメンバー)
さて問題点だ。
(1) そもそも現都立の大学の予算をまだ成立していない「首大」の予算配分形式
で「首大」の理事長予定者や学長予定者が決めるというのは間違っている。
(2) 「首大」に就任しない教員はプロジェクト・リーダーになれないというのは,
都立の大学の予算執行と関係ない差別である。
(3) 通常の研究費の総額をおよそ半分にしておいて,残りを傾斜的研究費とする
のは,傾斜的研究費に応募して採用されなかった教員の研究を不可能にする。
(4) 審査方法と基準が不明確。今回,事後にようやく上であげたような審査経過
が明らかになってきたが,第二段階の外部委員2人は,すべての分野の研究を
公平に評価できるだけの能力を持っているとは言えないだろう。
当然,なぜ16件のプロジェクト申請が不採択になったのかを,
審査委員会は公表する義務がある。
そして,驚くべき噂が流れている。
不採用になった経済学部の申請は,「首大」非就任者がリーダーになっていると
いう理由で落とされたというのだ。しかも第一段階では,落ちていなかった
ようで,第二段階では,なぜかもう除外されていたというのだ。そう,
誰かが第一段階と第二段階の間で,経済の申請をハネたらしい。
もしこれが事実なら,傾斜的配分研究費は,これからも審査経過の途中で
誰かが介入してくる恐れがある,ということだ。不採用になったプロジェクト
の理由とともに,どこの段階で不採用になったのかを,徹底的に
追求する必要がある。このようなことをやっている大学管理本部が
強引に作り上げようとしている「首大」を設置審が簡単に認可してしまう
ことはないと思いたいが...。設置審がいくら注文をつけても,
守られない可能性が高いのに...
W-15 「都立大は狙い目だ」という言葉を聞いたのです が,どういう意味でしょうか?
ポーカス博士実は,わしも最初は何のことか見当もつかなかった。しかし,何人かに尋ねて 見たところ,ようやく分かってきた。ようするに,就任承諾書を出した出さなかっ たにかかわらず,都立大には流出先を探している教員が少なからずいると 見なされている(おそらく本当のことだろう)。たとえば,独立行政法人化した 地方国立大や生き残りを賭けた力のある私立大学は, 教育や研究で個性を出そうと必死になっていて,いい人材を探している。 これまでのケースだと,東京のいわゆるレベルの高い大学の 教員は,地方の大学になかなか来てくれなかった。そんな時,出たがっている優秀な 教員がいる都立大は,「狙い目」なのだな。ちょっといい条件を提示したら, 公募に応募してくれそうだ,というわけだ。もちろん,公募ではなく「一本釣り」 もある。実際に,地方の有名校にかなり流出していることが分かっている。 このまま強引に2005年4月開学に向けて突き進めば,流出者はますます増えてい くだろう。
最近,「首大が狙い目だ」という言葉も聞いた。これは受験生の一部で 囁かれているらしいのだが,ようするに学費もどうやら都立大と同じになりそう だし,偏差値も下がって入りやすくなったから,「狙い目」だというのだ。 まあ,何をどのように勉強したいかによると思うが,経済学が「首大」に ないから経済を学びたい学生にとっては「狙い目」ではないな。 まだ公には語られていないが,いくつかのコースの中の一部の分野では, 流出者が多くてまともな教育研究ができない状況になっている。 なにしろ,この2年余りの間, 流出した教員分を公募して補うことを,大学管理本部は原則的に 禁止してきたからな。 人文系だけでなく,法学系などにも見られるようだ。 人減らしを当面の目標としてやってきた大学管理本部のやり方は, 経営的に成功したように見えるが,教育や研究面では致命的な打撃を 与えている。これでは,一部の研究分野,教育分野が維持できない。 これまで公募されたのは,ごく限られた分野だけだ。 法科大学院を維持するための教員とか, システムデザインの中の分野とか。そう考えると,受験生から見て, 本当に「首大が狙い目」と言えるのかどうかは分からないな。 「首大」で明らかに優遇されそうに見える応用技術系のコースなんかは, 「狙い目」かもしれない。 もちろん,「大学なんてただ卒業すればいいんだ」と思っている受験生 にとっては,授業料が安くて偏差値が低いのは大きな魅力で 「狙い目」だろうが...